対岸むこう)” の例文
旧字:對岸
喜「対岸むこうくぐらいは知ってるだが、一人で往くのも勿体もってえねえと思って人の来るのを待っていた処だ、丁度いからお乗んなせえな」
一方ならぬ御恩を受けていながら親方様の対岸むこうへ廻るさえあるに、それを小癪こしゃくなとも恩知らずなともおっしゃらず
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
富岡老人はそのまま三人の者の足音の聞こえなくなるまで対岸むこう白眼にらんでいたが、次第に眼を遠くの禿山はげやまに転じた、姫小松ひめこまつえた丘は静に日光を浴びている
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
小高い丘に、谷から築き上げた位置になって、対岸むこうへ山の青簾あおすだれ、青葉若葉の緑の中に、この細路を通した処に、冷い風がおもてを打って、爪先つまさき寒うたたえたのである。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目黒川の対岸むこう、一面の稲田には、白いもやが低く迷うて夕日が岡はさながら墨絵を見るようである。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
の軽業師と一緒に対岸むこうまで行けば全く名声を四海に轟かす事が出来る。首尾能く行けば太郎石鹸、太郎ムスク、太郎カラ——等が出来て、乃公は随分持てはやされるだろう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これが黒部の対岸むこうから聞えずに、反対側の中ノ谷の方から聞えたのは、山の反響であろう。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
対岸むこうの三人は喫驚びっくりしたらしく、それと又気がついたかしてたちまち声をひそめ大急ぎで通り過ぎてしまった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今度こっちの棟梁とうりょう対岸むこうに立ってのっそりの癖に及びもない望みをかけ、大丈夫ではあるものの幾らか棟梁にも姉御にも心配をさせるそのつらが憎くって面が憎くってたまりませねば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いかにも人はこもらぬらしい、物凄ものすさまじき対岸むこうの崖、炎を宿して冥々めいめいたり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北から南へと流れている笛吹川の低地ひくちを越してのその対岸むこうもまた山々の連続つながりである。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そもそも最初におのれめがわが対岸むこうへ廻わりし時にも腹は立ちしが、じっとこらえて争わず、普通大体なみたいていのものならばわが庇蔭かげたる身をもって一つ仕事に手を入るるか、打ちたたいても飽かぬ奴と
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)