寒月かんげつ)” の例文
「まるで犬に芸を仕込む気でいるから残酷だ。時に寒月かんげつはもう来そうなものだな」「寒月が来るのかい」と主人は不審な顔をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これが『猫』の寒月かんげつ君の話を導き出したものらしい。高浜さんは覚えておられるかどうか一度聞いてみたいと思っている。
高浜さんと私 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
寒月かんげつくまなく照り輝いた風のない静な晩、その蒼白い光と澄み渡る深い空の色とが、何というわけなく、われらの国土にノスタルジックな南方的情趣を帯びさせるよる
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
明治四十八年には三階を建て五十八年に四階を建てて行くと死ぬまでにはよほど建ちます。新宅開きには呼んで下さい。僕先達せんだって赤坂へ出張して寒月かんげつ君と芸者をあげました。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
牛頭山前よりは共にとちぎりたる寒月かんげつ子と打連れ立ちて、竹屋の渡りより浅草にかかる。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二十二年の七月廿にぢう三号の表紙をへて(桂舟けいしうひつ花鳥風月くわてうふうげつ大刷新だいさつしんわけつた、しきり西鶴さいかく鼓吹こすゐしたのはの時代で、柳浪りうらう乙羽おとは眉山びさん水蔭すゐいんなどがさかんに書き、寒月かんげつ露伴ろはん二氏にし寄稿きかうした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
寒月かんげつは谷を埋むるしかばねにまた冴えたらしあるはうごくに
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
寒月かんげつ鋸岩のこぎりいわのあからさま
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ところへ寒月かんげつ君が先日は失礼しましたと這入はいって来る。「いや失敬。今大変な名文を拝聴してトチメンボーの亡魂を退治たいじられたところで」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが「ねこ」の寒月かんげつ君の講演になって現われている。高等学校時代に数学の得意であった先生は、こういうものを読んでもちゃんと理解するだけの素養をもっていたのである。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
寒月かんげつやいよ/\えて風の声
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
御三おさんは御馳走を半分食べかけて夢から起された時のように、気のない顔をして餅をつかんでぐいと引く。寒月かんげつ君じゃないが前歯がみんな折れるかと思った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)