ひっそ)” の例文
お互に痛くないように大造たいそうな剣幕で大きな声で怒鳴どなっ掴合つかみあ打合うちあうだろう。うするとその辺の店はバタ/\片付けて戸を締めて仕舞うてひっそりとなる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうしてもうそうなると、水足が早くなって、小銀が、姉さん、姉さんッて聞く内に、乳の下まで着いたんだよ。山の中はひっそりして、鳥の声も聞えない。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ツートよくお寐入ねいりなさった様子で、あとは身動きもなさらず、ひっそりした室内には、何の物音もなく、ただ暖炉だんろの明滅がすごさを添えてるばかりでした。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
其処そこで、どまって、ちょっと気をけたが、もうんでひっそりする。——秋の彼岸過ぎ三時さがりの、西日が薄曇うすぐもった時であった。この秋の空ながら、まだ降りそうではない。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おらが肩も軽くなって、船はすらすらとすべり出した。胴の間じゃひっそりして、幽かにいびきも聞えるだ。夜は恐ろしく更けただが、浪もたいらになっただから、おらも息をいたがね。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時に、ひっそりした横町の、とある軒燈籠の白いあかりと、板塀の黒い蔭とにはさまって、ひらたくなっていた、頬被ほおかむりをした伝坊が、一人、後先をみまわして、そっと出て、五六歩行過ぎた、早瀬の背後うしろへ、……抜足で急々つかつか
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)