寂滅じゃくめつ)” の例文
こいつは臭いと思ったから、船をとめさせて指で石をはじいて見ると、カチンというところがポコンといった。これで伏鐘組は寂滅じゃくめつ
それは、きて生きん、ということであるとここでは説くのだ。安楽に眼をねむったり、寂滅じゃくめつの終りを意味する言葉ではない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの如来は大涅槃だいねはんに入りて既に久しと聞いて目を閉じ残念な顔付しまた釈迦如来は世に出たかと問うから、昔生まれて世を導きすでに寂滅じゃくめつされたと答う。
了善上人には御連合おつれあいも先年寂滅じゃくめつなされ、娘御むすめごお一人御座候のみにて、法嗣ほうしに立つべき男子なく、遂に愚僧を婿養子むこようしになされたき由申出され候うち、急病にて遷化せんげ遊ばされ候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僧族、貴族、主族の手合いを、鶏のように潰してしまう。麗人国は寂滅じゃくめつだ。……よろしい戦争はひらくがいい。だがその前に考えてくれ。どこから兵糧を持って来るかとな。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いわばこの桶の中のそらのように、静かながら慕わしい、安らかな寂滅じゃくめつの意識であった。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
敷島しきしまのさきに付けて吸ってみると、鼻から煙が出た。なるほど、吸ったんだなとようやく気がついた。寸燐マッチは短かい草のなかで、しばらく雨竜あまりょうのような細い煙りを吐いて、すぐ寂滅じゃくめつした。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その食物は豚肉を主としている、釈迦はこの豚肉の為にあらかじめ害したる胃腸を全く救うべからざるものにしたらしい。その為にとうとう八十一歳にしてクシナガラという処に寂滅じゃくめつしたのである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それは、二十年の春を、つい此の間迎えたばかりの呉子さんが、早や墨染すみぞめの未亡人という形式にほうむられて、来る日来る夜を、寂滅じゃくめつ長恨ちょうこんとに、止め度もないなみだしぼらねばならなかったことだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「これで長州も寂滅じゃくめつ
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これで人穴城ひとあなじょう蛆虫うじむしどもは、もなくいっぺんに寂滅じゃくめつだ。伊那丸いなまるさまも、およろこびなら、お師匠ししょうさまからも、たくさんめていただかれるだろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんな健全に泳いでいる。病気をすれば、からだがかなくなる。死ねば必ず浮く。それだから魚の往生をあがると云って、鳥の薨去こうきょを、落ちるととなえ、人間の寂滅じゃくめつをごねると号している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その寺に、今から三、四代前とやらの住職が寂滅じゃくめつの際に、わしが死んでも五十年たったのちでなくては、この文庫は開けてはならない、と遺言ゆいごんしたとか言伝えられた堅固な姫路革ひめじがわはこがあった。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これで謎々も寂滅じゃくめつとなり、二人は黙って歩いて行った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これを案じえない三四郎は、現に遠くから、寂滅じゃくめつを文字の上にながめて、夭折ようせつの哀れを、三尺の外に感じたのである。しかも、悲しいはずのところを、快くながめて、美しく感じたのである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)