宸筆しんぴつ)” の例文
一方の柴進さいしんは、はたごへ帰ると、さっそく宋江へ「山東宋江」の宸筆しんぴつを見せ、またつぶさに、禁裏きんりの様子もはなして聞かせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万乗の天子も些少の銭貨にかへて宸筆しんぴつを売らせ給ひ、銀紙に百人一首、伊勢物語など望みのまゝをしるせる札をつけて、御簾みすに結びつけ、日を
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
胎内には、聖武天皇宸筆しんぴつの薬師本願経、法華経一部、皇后筆の金剛般若経はんにゃきょう、法華経一部、ならびに仏舎利五粒をともに奉納したと伝えられる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
しからばこのもといってさらに斟酌しんしゃくを加えば、いくらも妙策あるべし。また懐徳堂には霊元上皇宸筆しんぴつの勅額あり。このもといに因りさらに一堂を興すもまた妙なりと小林いえり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
『新撰菟玖波集』には御製の金章長短の宸筆しんぴつをも交えているので、禁裏でも等閑なおざりの献上物のごとく見過ごされず、叡覧のうえ誤謬でも発見せられたものか、女房奉書を賜わった翌々日
流し斯るいやししづ腰折こしをれも和歌のとくとて恐多おそれおほくも關白殿下くわんぱくでんかへ聽えしも有難さ云ん方なきに況てや十ぜんじようの君より御宸筆しんぴつとはと云つゝ前へがツくり平伏へいふく致すと思ひしに早晩いつしか死果しにはてたりしとぞ依て遺骸なきがら洛外らくぐわい壬生みぶ法輪寺ほふりんじはうむり今におかち女のはか同寺どうじにありて此和歌わかのこりけるとかや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼の意気たるやさかんであった。その朝は、星の下に、水垢離みずごりをとり、白木綿しろもめん浄衣じょうえを着て、黄布きぎぬのつつみを背中へはすにかけて結んだ。内に宸筆しんぴつの勅願をおさめたのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宋江は、宸筆しんぴつを見て、ああ……と浩嘆こうたんしてやまなかったが、明ければ十四日、この黄昏たそがれをはずしてはと、まつりの人波にまぎれて、城内の中心街へ入りこんでみた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)