定連じょうれん)” の例文
本堂にはお説経の壇が出来て、赤地錦あかじにしきのきれが燦爛さんらんとしている。広い場処に、定連じょうれんの人たちがちらほらいて、低い声で読経どきょうしていた。
定連じょうれんのやうに毎晩寄つてくれる近所の若い人たちも、今夜は湯帰りの湿手拭てぬぐいをぶら下げながら黙つて店の前を通り過ぎてしまふんです。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
公爵、衆族院議長というよりも、国技館の定連じょうれんとして有名で、たまに姿が見えないと「徳川関休場」などと、雑観記事の見出しになった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「わからずやを言うなよ、隊長の近藤君や、芹沢君はじめ、みんなこの島の定連じょうれんなのじゃ、貴様、若いくせに、ここまで来て素通すどおりという法があるか」
これは自分のうちが色物の寄席のまえで、毎晩定連じょうれんの格で遊びに行っていたものですから、いろいろ八さんや熊さんの出て来る落語はなしにくわしいのでした。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
高座こうざ右側みぎわきには帳場格子ちょうばごうしのような仕切しきりを二方に立て廻して、その中に定連じょうれんの席が設けてあった。それから高座のうしろ縁側えんがわで、その先がまた庭になっていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
折々定連じょうれんの客に投票をひ新しき演題を定めあるひは作曲と演奏との批評を求むるなどこの小紅亭の高尚最新の音楽普及に力をつくす事一方ひとかたならぬを察すべし。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこは多吉がひいきにする床屋で、老練な職人のいることを半蔵にも教えてくれたところである。多吉が親しくする俳諧はいかい友だちのいずれもは皆その床屋の定連じょうれんである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見せかけのこの親子連が成功するかしないかと楽屋がくやを見抜いた商売女たちや店の連中、定連じょうれんのアパッシュまでがひそかに興味をもって明るい電気の下で見まもっていた。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
重兵衛さんの長男は自分等よりはだいぶ年長で、いつもよく勉強をしていたのでその仲間にははいらなかったが、次男の亀さんとその妹の丑尾うしおさんとが定連じょうれんのお客であった。
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
とか何とか云う理由から、このカッフェの定連じょうれんの間には、つとに通俗小説と云う渾名あだなが出来ているらしい。もっとも渾名あだなにはまだいろいろある。簪の花が花だから、わすれな草。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも入場料は五銭とか八銭とかの謂わば大衆的な低廉ていれんのもので手軽に見られる立見席もあり、私たち貧書生はたいていこの立見席の定連じょうれんで、これはしかし、まあ小芝居の方で
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そいつはアトランチスの定連じょうれんかね」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
定連じょうれんの朝湯の客は、この物狂わしい先生の挙動を、むしろおかしがっていたが、先生は大急ぎで着物を引っかけて、帯を締めると、湯銭も茶代も、そっちのけにして
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
祖母もまたわたしに附添って、そのあとでは二、三年わたしより遅れて入学したわたしの妹に食ッついて、ときに矢っ張とも/″\その小使部屋で日を消す定連じょうれんのなかの一人だったのである。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ともし頃に家に帰ると、家では定連じょうれんの外に、見知らぬ人も二三人来て、座敷一ぱい、いろ/\の道具や品物を置き並べ、まん中に置いた台の前に立って、定連の一人の新川堀の酒問屋の息子が
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いつも遊びに来る定連じょうれんの中の一人には相違ないが、年はなにしろ子供だろうが、肉体はいちばん発達している、顔に少し抜けたところはあるけれども、色は白いし
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼等三人がこの八日市の酒場へ逃げ込むと、そこには土間の大囲炉裏おおいろりを囲んで、定連じょうれん濁酒どぶろくを飲んだり、芋をつついたりして、太平楽たいへいらくを並べている最中でありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここまで言ってしまえば、当然このすばしっこい摺抜け者が、がんりきの百蔵という名代なだいのやくざ野郎にほかならないことは、定連じょうれんはみな感づいていないはずはないのであります。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
炉辺閑談といううちに、ここへ集まる定連じょうれんのかおぶれを、ざっと記して置きましょう。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)