宗匠そうしょう)” の例文
もしわれらの如き文学者にしてかくの如き事を口にせば文壇はこぞって気障きざ宗匠そうしょうか何ぞのように手厳てひど擯斥ひんせきするにちがいない。
毛糸の手袋てぶくろめ、白足袋しろたび日和下駄ひよりげたで、一見、僧侶そうりょよりは世の中の宗匠そうしょうというものに、それよりもむしろ俗か。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
囲碁では外舅殿しゅうとどのがお師匠さんで、俳句ではお婿さんが宗匠そうしょうらしい。まず以て申分ない舅婿の関係を保っている。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
是がいずれもひとかどの宗匠そうしょうといわるる人の説なのだから、つまり彼らは『七部集』をすらも理解せずに主として発句だけを作っていたので、驚いた話である。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
宗匠そうしょうらしい老人から、いなせとびらしい若者も通る。ごった返しているのである。時刻からいえば夕暮れ近くで、カッと明るい日の光が、建物にも往来にもみなぎっている。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もし月並宗匠そうしょうに、この場合発句を作らしたら決してこうはいわぬ。ついでに月並的の句と、文学的の句との区別を、ちょっと説明して見よう。これ反面からこの価値を明かにする所以ゆえんであるから。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
むべなるかな、君を、作中人物的作家よと称して、扇のかげ、ひそかに苦笑をかわす宗匠そうしょう作家このごろ更に数をましている有様。しっかりたのみましたよ、だあさん。ほほ、ほほほ。ごぞんじより。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その時、父の宗匠そうしょうおごそかにいいました。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「大変だね、宗匠そうしょう
なかには主人あるじ宗匠そうしょう万年青おもとの鉢を並べた縁先えんさきへ小机を据えしきり天地人てんちじんの順序をつける俳諧はいかいせんに急がしい処であった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは終の方の『続猿蓑ぞくさるみの』の中にあって、宗匠そうしょうは一句しか参加しておらぬので、人のあまりに注意していない附合つけあいであるが、変化の面白さのよく現われているのは
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
蘿月宗匠そうしょうはいくら年をとっても昔の気質かたぎは変らないので見て見ぬようにそっと立止るが、大概はぞっとしない女房ばかりなので、落胆らくたんしたようにそのまま歩調あゆみを早める。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
宗匠そうしょうは意外に早く世を去り、旧式の教育を受けた俳諧師はなお国内にあふれていて、いずれも自分自分の器量だけにしか、これを解説し敷衍ふえんすることができなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二伸 かの六畳土庇どびさしのざしき太鼓張襖紙たいこばりふすまがみ思案につき候まゝ先年さる江戸座の宗匠そうしょうより売付うりつけられ候文化時代吉原よしわら遊女の文殻反古張ふみがらほごばりに致候処妾宅しょうたくには案外の思付に見え申候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
宗匠そうしょうずその場を円滑えんかつに、お豊を安心させるようにと話をまとめかけた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)