太息ためいき)” の例文
「はあッ」と、まだ太息ためいきを吐いている。「じゃ思い切って言って了おうかなあ! ……あなたが屹度愛想を尽かすよ。……尽かさない?」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
でも昨今は彼女も諦めたか、昼間部屋の隅っこで一尺ほどのさらしの肌襦袢を縫ったり小ぎれをいじくったりしては、太息ためいきいているのだ。
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
長閑に一服吸ふて線香の烟るやうに緩〻ゆる/\と烟りをき出し、思はず知らず太息ためいき吐いて、多分は良人うちの手に入るであらうが憎いのつそりめがむかふへ廻り
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
すると、幸いにも、そこで降りたのは、彼ともう一人、子を負んだ女の人だけだったので、むこうへ走って行く電車を見送りながら、清三はほッと太息ためいきをついた。
被尾行者 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
家をめぐりてさらさらと私語ささやくごとき物音を翁は耳そばだてて聴きぬ。こはみぞれの音なり。源叔父はしばしこのさびしきを聞入りしが、太息ためいきして家内やうちを見まわしぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
貫一のまなこはその全身の力をあつめて、思悩める宮が顔を鋭く打目戍うちまもれり。五歩行き、七歩行き、十歩を行けども、彼の答はあらざりき。貫一は空を仰ぎて太息ためいきしたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
弟は、と問へば、しばし黙然たりしが、何かは知らず太息ためいきと共に、あれは殺して来たよ、と答へぬ。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
渠女かれは始終、涙と太息ためいきとで聞いてしまつて、さて心の糸のもつれもつれて、なつかしさと切なさとに胸裡は張り裂けんばかり、銀が今の身の上最愛いとしと思ひつめては、ほとんど前後不覚。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
おはま (慰めかねて言葉もなく、太息ためいきをつく)
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
長閑のどかに一服吸うて線香の煙るように緩々ゆるゆると煙りをいだし、思わず知らず太息ためいきいて、多分は良人うちの手に入るであろうが憎いのっそりめがむこうへまわ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女は枕に顔を伏せながら、それには答えず、「はあ……」と、さも術なそうな深い太息ためいきをして、「だから、私、男はもう厭!」あたりを構わず思い入ったように言った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
されども、この身の上にきはめしたのしみも、五年いつとせの昔なりける今日の日にきはめしかなしみふべきものはあらざりしを、と彼は苦しげに太息ためいきしたり。今にして彼は始めて悟りぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「それでは、今度はC子さんに御願い致しましょう」と私が申しますと、C子さんは、何故か先刻さっきから二三度太息ためいきをついて居られましたが、この時、決心したように言いました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「飛んだことになってしまったものですなあ」と、あとの言葉も出でずに黙って太息ためいきいていた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
何ともないものが、惘然ぼんやり考へたり、太息ためいきいたりしてふさいでゐるものか。僕は先之さつきから唐紙からかみの外で立つて見てゐたんだよ。病気かい、心配でもあるのかい。言つてきかしたつて可いぢやないか
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小田さんは太息ためいきをついて申しました。
紫外線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
幾度か躊躇ちゅうちょして、長い太息ためいきを吐いたが、女がもしその深い山の中に行っているとしたら、自分もそこまで入ってゆかねば会うことも見ることも出来ぬのであると思うと
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
静也は太息ためいきをついた。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そう言ったまゝ、後はだまあって此度は一層強い太息ためいきを洩らしながら、それまでは火鉢の縁にかざしていた両手を懐中ふところに入れて、傍の一閑張りの机にぐッたりと身を凭せかけた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「ほんとに私もそう思うよ」お宮は太息ためいきくようにしていった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
困ったことだと、ひそかに腹の中で太息ためいきいていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)