大鍋おおなべ)” の例文
次の日の夕方、湖畔の焚火たきびを囲んでさかんな饗宴きょうえんが開かれた。大鍋おおなべの中では、羊や馬の肉に交って、哀れなシャクの肉もふつふつえていた。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
細君は別に鶏と茄子なすの露、南瓜とうなすの煮付を馳走振ちそうぶりに勧めてくれた。いずれも大鍋おおなべにウンとあった。私達は各自めいめい手盛でやった。学生は握飯、パンなぞを取出す。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
向うに真暗まっくら納戸なんどへ逃げて、して炉べりに居る二人ばかりの人の顔が、はじめて真赤に現れると一所いっしょに、自在にかかつた大鍋おおなべの底へ、ひら/\と炎がからんで
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一〇、コルシカ人の急所は大鍋おおなべの中に。翌日の午後、コン吉はコルテの町からさまざまな買物を騾馬ろばの背に満載して帰って来た。それと同時に『極楽荘』の内外うちそとには大改革が行なわれた。
大鍋おおなべにうんと拵えた三平汁を見ると、持前の鋭い目をぎろつかせたものだったが、そうした場合に限らず、長火鉢ながひばちの傍に頑張っている姉の目の先きで、子供たちと一緒に食卓に坐るのは
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼がこの大鍋おおなべの中で倫敦のすすを洗い落したかと思うとますますその人となりがしのばるる。ふと首を上げると壁の上に彼が往生おうじょうした時に取ったという漆喰しっくいせい面型マスクがある。この顔だなと思う。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
炉に懸けた泥鰌汁どじょうじる大鍋おおなべからは盛に湯気がちまして、そこに胡座あぐらをかいた源の顔へにおいかかるのでした。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二竈ふたつべッつい大鍋おおなべの下をたきつけていた、あねさんかぶりの結綿ゆいわたの花嫁が返事をすると
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大鍋おおなべのかけてある炉辺ろばたに腰掛けて、煙の目にしみるような盛んな焚火にあたっていると、私はよく人々が土足のままでそこに集りながら好物のうでだしうどんに温熱あたたかさを取るのを見かける。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)