ごう)” の例文
ところが、敵が正攻法による包囲を選んで、最初の平行ごう開鑿かいさくするのを見ると、その識者連が大喜びに喜んで、安心したという話です。
山の横腹に掘りかけて、凹字おうじ形が六七分できた頃に打ちすてられたごうの一番奥のところ。土と岩の入れまじった黒い壁と床。
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
谷のうちを見わたすに諸所にさくありごうあり、また新しき寨門さいもんや糧倉などは見えますが、守備の兵はことごとく南山の一峰へ逃げ退いているようです。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌日の昼、霧雨きりさめの中を谷山に着いた。ごうの中は湿気に満ち、空気は濁っていた。暗号室は、壕の一番奥にあった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
人々はかたずをのんで、的の下のごうからの合い図を待ちました。赤い旗が出て上下にれば十点、黒い円形の弾痕指示器だんこんしじきが出て左右にれば零点れいてんなのです。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
わたしの家は光線でゆがんだ。火は近くまで燃えていた。わたしの夫が死んだのを知ったのは三日目のことだった。わたしの息子むすこはわたしと一緒にごうに隠れた。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
敵機来襲の時には、妻が下の男の子を背負い、私は上の女の子を抱いて、防空ごうに飛び込みます。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
一日のうちなん度も、仕事を投げだして防空ごうの中へとびこまなければならない、すさまじい落下音を聞き、炸裂さくれつする爆弾の震動に身を揺すられ、戦闘機の掃射弾を浴びた。
四年間 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
空襲のサイレンとともに背負ってごうへ入る。いざというときはこれだけを持って火焔かえんの中を逃れようと覚悟していた。むろん最後の場合には、原稿は僕の肉体とともに消え去るであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ごうにすみ、雨にぬれ、行きたくても行き場がないよとこぼしていたが、そういう人もいたかも知れぬが、然し、あの生活に妙な落付おちつき訣別けつべつしがたい愛情を感じだしていた人間も少くなかった筈で
堕落論〔続堕落論〕 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あの夜、火の手はすぐ近くまで襲って来るので、病気の義兄は動かせなかったが、姉たちはごうの中でおののきつづけた。それからまた、先日の颱風たいふうもここでは大変だった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
「すべての陣門を敵へ開け。射手いてはみなごうの中に身を伏せろ。旗はひそめ、鼓はめよ。そして、林のように、せきとして、たとい敵が眼に映るところまで来てもかならず動くな」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
審判官殿しんぱんかんどのわたくしはたしかに三回とも的をあてました。けれども、それはごうの中にいる人にわからなかったのであります。第二第三の弾丸たまは第一の弾丸のつらぬいたあなを通ったはずです。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
高射砲の炸裂さくれつする音が遠くで聞えた、丘にくり抜かれている横穴のごうへ人々は這入って行った。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
兵はみな不用意に城壁へつかまり、常雕じょうちょうごうのきわまで馬を出して下知していた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四人はあたふたと庭のごうへ身を潜めた。密雲の空は容易に明けようともせず、爆音はつぎつぎにききとれた。もののかたちがはっきり見えはじめたころようやく空襲解除となった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
……それから日没の街を憮然ぶぜんと歩いている彼の姿がよく見かけられた。街はつぎつぎに建ものが取払われてゆくので、思いがけぬところに広場がのぞき、粗末な土のごううずくまっていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)