境目さかいめ)” の例文
そうして道と田の境目さかいめには小河の流れが時々聞こえるように感ぜられた。田は両方とも狭く細く山で仕切られているような気もした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だからこの正風しょうふう境目さかいめのはっきりと区切られるまでの間、あまり深々と立入って見ようとする人の無かったことは幸いでもあった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのかわり夜になると、かれらは珍らしい水と空気との境目さかいめまで行って、月や星や風や空気や草木のささやきを知ることができるのでした。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
境目さかいめは崩れかけた土塀にすぎないが、不思議にも住職同士も、また寺男たちもあんまり交際はしないで、ただ時々ちらりと顔を見るくらいのもので
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼がこう云う不思議な希望と計畫とを胸に育てゝいる一方、寄手よせてと味方とは本丸と二の丸の境目さかいめのところで毎日血みどろな攻防戦を続けつゝあった。
自分の愛するものが死ぬかきるかの境目さかいめに来たと思うと、生への執着と死への恐怖とが、今まで想像も及ばなかった強さでひしひしと感ぜられた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あいがかった水のながれが、緩くうねって、前後あとさきの霞んだ処が、枕からかけて、まつげの上へ、自分と何かの境目さかいめあらわれる。……
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとは只、これに共鳴するかしないかという紙一重の境目さかいめに彼女達は毎日毎日立たなければならなかった。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
いま人間が一人、溺れ死ぬかどうかという浮沈ふちん境目さかいめだ。綱をしっかり持っているんだぜ
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
神と人の境目さかいめが南の島々の信仰ではよほど特殊であり、それが気をつけて見ると本州の北部にも、かすかながら痕跡をとどめている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「お宝物はリイがいただいてまいりました。リイは国の境目さかいめの高い山の上にお待ちしております」
奇妙な遠眼鏡 (新字新仮名) / 夢野久作香倶土三鳥(著)
盲人自身の物語へ移る境目さかいめ際立きわだたせないようにしてすら/\と這入って行きたいのであるが
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
月の出にはまだ間がある時刻でした。波は存外暗く動いていました。眼がなれるまでは、水といそとの境目さかいめ判然はっきり分らないのです。兄さんはその中を容赦なくずんずん歩いて行きます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際この類の狐になると、果して人に化けたのやら、もしくは人の形になりきっているのやら、その境目さかいめがもうはっきりしてはいなかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
リイはそれからアア王とサア王の国の境目さかいめにある一番高い山の上に遠眼鏡の魔法で飛んで行って、そこの岩に腰をかけて、遠眼鏡で二人の兄さんのお城のようすを見ていました。
奇妙な遠眼鏡 (新字新仮名) / 夢野久作香倶土三鳥(著)
盆のままごとと正月のドンドン小屋と、今一つの似た点は成長段階、すなわち子どもが大人になる境目さかいめを、かなりはっきりと区切っていることであった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今でも九州や東北の田舎いなかで年に一度の綱曳つなひきという行事などは、ちょうどこの子ども遊びとの境目さかいめに立っている。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
或いは初のウヒ、産のウムなどとつながった音であって、かつて一年の巡環の境目さかいめを、この月に認めた名残かというような、一つの想像説も成り立つのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そういう中には説話との境目さかいめが明らかでなく、さながら真実として主張せられるものが多いので、そのためにかえって将来の比較研究には十分に利用し得られるのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
子どもが大きい人から引継ひきつがれた行事と、単なる彼らの遊戯との境目さかいめは目に立たない。ただ年月がって一方がもうその重要性を認めず、おいおいに起りを忘れてしまうだけである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)