うずた)” の例文
からはきらりと光りを放って、二尺あまりの陽炎かげろうむこうへ横切る。丘のごとくにうずたかく、積み上げられた、貝殻は牡蠣かきか、馬鹿ばかか、馬刀貝まてがいか。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
来客の後と見えて、支那焼の大きな菓子鉢に、マスマローと何やらがうずたかく盛つて、煙草盆のわきにあるのが目に附く。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
石の断片ばかり磊々らいらいとして、小さくうずたかくなっている、ここは槍ヶ岳へも、岳川岳から岩壁伝いに乗鞍岳へも、また奥穂高へも、行かれるところで、三方への追分路である
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一人になった客は、さも満足げに、殆んど天井につかえそうなほどうずたかくりあがった寝床を見やった。この通りフェチニヤは、羽根蒲団を敲くことにかけての名人であった。
面積は三町歩ちょうぶあまり、こずえにいる小禽しょうきんが高くて撃てぬと狩猟家である上野さんの説明通り樟はいずれも高くのびており殆ど純林をなしていて、木漏日がわずかにさし、うずたかいほど落葉が積んでおり
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
加之しかうずたかき枯葉を蹴って、何者かと挑み闘うように聞えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある雑誌へ、ある人のさくを手紙を付けて紹介する約束がある。この二三箇月中に読むはずで読めなかった書籍は机の横にうずたかく積んである。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長い廻廊ギャラリイに足踏みもならぬほど、うずたかく盛り上ったように、谷の中は、破片岩が一杯で、おのずと甃石たたみいしになっている、うろこがくっついているのかとおもう、赤くぬらくらしたのもあれば
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
その他あらゆる混ぜものをした厚焼レピョーシカが、テーブルの上にうずたかく盛りあげてあった。
山と盛る鹿の肉に好味のとうふるう左も顧みず右も眺めず、只わが前に置かれたる皿のみを見詰めて済す折もあった。皿の上にうずたかき肉塊の残らぬ事は少ない。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乾魚などがうずたかく並べられた——いずれも魚市場から徴発して来たものだ。
五つか六つ石がうずたかくなっているように見えたのは、岩石で組んだ立派なピークであった、その中でも、巨岩が垂直線に、鼻ッ先に立ちふさがっているところは、身を平ったく、岩と岩の間を潜ったり
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
さすがの寺僧じそうもここまでは手が届かぬと見えて、当座は掃除のはんを避けたものか、またはうずたかき落葉を興ある者とながめて、打ち棄てて置くのか。とにかく美しい。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玻璃盤はりばんうずたかく林檎りんごを盛ったのが、白い卓布たくふの上にあざやかに映る。林檎の頬が、暗きうちにも光っている。蜜柑を盛った大皿もある。そばでけらけらと笑う声がする。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)