地方じかた)” の例文
この能登も、ここで一つの功を立てれば、いずれは地方じかた(本土)に二郡や半国の領地は持ちえて、都に一ト屋敷は構えるつもり……。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつでも地方じかたにアテすなわち目標を見定めていて、よほど確かな船頭をもたぬかぎり、山ナシという水域までは出ないようにしていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この人は先祖代々御嶽の山麓さんろくに住み、王滝川のほとりに散在するあちこちの山村から御嶽裏山へかけての地方じかたの世話を一手に引き受けて
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ちょうど石廊岬いろうざきの端をかわし、右に神子元島みこもとじま地方じかたが見えかかるころ、未申ひつじさるの沖あいに一艘の船影が浮かびあがって来た。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
当人もかねてそれを懸念けねんしたらしく、地方じかたで舞を引き立てるように、今日は特に幸子の琴の師匠である菊岡検校けんぎょうの娘をわずらわして、三味線に出てもらったのであったが
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
制服を着、帽子を胡座あぐらの上にのせ、浮れていた。地方じかたの唄をすっかり暗誦していて合わせたり
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
地方じかたの三味線と、鼓、唄い手などが六人、五葉松の背景のある舞台奥にならんでいる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
かれいの類は沖遠くにて釣ることなれば、名立を離るること八里も十里も出で、皆々釣り居たるに、ふと地方じかたの空を顧みれば、名立の方角と見えて、一面に赤くなり、夥しき火事と見ゆ。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
その新富座の茶屋丸五まるごの二階。盛時をしのばせる大きな間口まぐちと、広い二階をもったお茶屋が懇意なので、わたしは自作の「空華くうげ」という踊りの地方じかた稽古所けいこじょに、この二階をかりてあてた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ねえさん株の福太郎と春次が長唄ながうた地方じかたでお酌が老松おいまつを踊ると、今度は小稲が同じ地方で清元の春景色を踊るのだったが、酒がまわり席のややみだれた時分になって、自称女子大出の染福が
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ここの地方じかたをやっているんですよ」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
半蔵が福島の方から引き返して、地方じかた御役所でしかられて来たありのままを寿平次に告げに寄ったのは、この混雑の中であった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ついては、地方じかた武士の面々は、このさい加役を解かれるゆえ、三日以内に島外へ立ち退き、各〻の在所へ帰国するがいい」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お富士さんはだめか。この霧さえなけれァ、御前崎の地方じかたのアヤぐらいは見えるんじゃがのうし」
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
簡単にこれを解説すれば(一)は地方じかたの書に天水場とあるもの、即ち小さな低い島々などの、雨より以外に水を与える方法の無い、いわば天然の力に任せるものである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やがてはやしが始り、短い序詞がすむと、地方じかたから一声高く「都おどりは」と云った。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
階下ではもう地方じかたが並んだと見えて、胡弓こきゅうと三味線の調子を合わす音がきこえた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「帰ったら、寺中へ申し触れるがいい。いかなる船も、無断、島前どうぜんの磯へ近よったら再び地方じかた(本土)へは還さんぞと」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな事件が突発するにつけても、日ごろのなおざりが思い出されて、地方じかたの世話も届きかねるのは面目ないとは家の人たちのかき口説くどく言葉だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
年の豊凶によらず、毎年定額のやや低い年貢を納めさせる土地ということで、地方じかたの書物を読んでみると、幕府領でもこれが普及したのは江戸中期、享保の頃からであった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あと一時間、あと一時間と、ギリギリのところまでのばし、夜が明けて内地の地方じかたが見えだしたところで、思いきってやってしまったのだろう。その辺の気持がおしはかられてあわれだった。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もっとも、これは川下の事情にくわしい人の側から言えることで、遠く川上の方の山の中に住み慣れた地方じかたの人民の多くはそこまでは気づかなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「早く参って、新規御加増の采地さいちは、どこの村か、どこを境とするか、よく地方じかたのお指図をうけたまわって、戴いたものは戴いたようにしておかねばいかんじゃないか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同夜、こくごろより、石火矢いしびや数百ちょう打ち放し候ところ、異船よりも数十挺打ち放し候えども地方じかたへは届き申さず。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは木曾谷中を支配する地方じかた御役所よりの通知で、尾張藩おわりはんからの厳命に余儀なくこんな通知を送るとのにがい心持ちが言外に含まれていないでもない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)