土下座どげざ)” の例文
そういう親しみを、不敬とよんで、庶民に土下座どげざいたのは、もっと後世の風習である。武将が政権をにぎってからのことだ。
その頃はマダ葵の御紋の御威光が素晴らしい時だったから、町名主は御紋服を見ると周章あわてて土下座どげざをしてうやうやしく敬礼した。
土下座どげざをせんばかりに喜左衛門夫婦と鍛冶屋富五郎がガヤガヤしているのを、仔細しさいを知らない通行人がふしぎな顔で見て通る。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鋭い五右衛門の言葉を聞き、項垂うなだれていた権六は、この時大地へ土下座どげざを組み、度胸を定めて云い出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今の主人の何代か前の先祖にあたる大谷源兵衛老人は土下座どげざをして対面したが、この書付けを見せると、今度は代官の方が席をゆずって土下座をしたと伝えられている。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今は四民が平等と見なされ、権威の高いものに対して土下座どげざする旧習も破られ、平民たりとも乗馬、苗字みょうじまでを差し許される世の中になって来た。みんな鼻息は荒い。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
左右ひだりみぎ土下座どげざして、手をいていた中に馬士まごもいた。一人が背中に私をおぶうと、娘は駕籠から出て見送ったが、顔にそでを当てて、長柄ながえにはッと泣伏なきふしました。それッきり。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美しいなあおぬいさんは……涙が出るぞ。土下座どげざをしておがみたくならあ……それだのに、今でも俺は、今でも俺は……機会さえあれば、手ごめにしてでも思いがとげたいんだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これはなんという急激な改革だかしれない。昨日きのうまで土下座どげざの身分の者が、ともかく同等の権利を認められようというのだ。そして憲法は発布され、国会も開設されようというのだ。
精出せいだして立派な関取におなり、辛いことがあったら、その薄情な親類どもの顔を思い出して、一所懸命おやり、出世したら故郷へにしきを飾って、薄情揃いの奴等に、土下座どげざさせておやり
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
土下座どげざもしかねないだろう。そんなことを想像すると、全く胸がわくわくする。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
領主りょうしゅ奥方おくがた御通過ごつうかというので百姓ひゃくしょうなどは土下座どげざでもしたか、とっしゃるか……ホホまさかそんなことはございませぬ。すれちがときにちょっと道端みちばたけてくびをさげるだけでございます。
坊主が土下座どげざして「お慈悲、お慈悲。」で、おねがいと言ふのがかねでも米でもない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼らの土下座どげざをうける資格があろうかと、自問自答が起るのだった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これはどうも——平民は土下座どげざしないと——」
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)