唐紅からくれない)” の例文
猩々緋しょうじょうひのような唐紅からくれないに彩られそめたとおもったら、向こう河岸で仕掛花火の眉間尺みけんじゃくがクルクルクルクル廻りだしていた(下略)。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
未来を覗く椿つばきくだが、同時に揺れて、唐紅からくれない一片ひとひらがロゼッチの詩集の上に音なしく落ちて来る。まったき未来は、はやくずれかけた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、次々に深紅の血汐が、ポカリポカリと水面へ浮かび、その辺一面見ている間に緋毛氈ひもうせんでも敷いたように、唐紅からくれないと一変した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「待った、恐ろしい関があるんだ。この水銀灯の光だ。カズ子さん、このままあなたがこの小路を奥へ駆込めば、あなたの首はすっとんで、あたり一面はそれこそ唐紅からくれないですぞ」
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一坪の畳は全くあけに染みて、あるいは散り、あるいはほとばしり、あるいはぽたぽたとしたたりたる、そのあとは八畳の一間にあまねく、行潦にわたずみのごとき唐紅からくれないの中に、数箇所の傷を負いたる内儀の、こぶしを握り
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水を求めあぐねて、ついに張り裂けるばかりの咽喉のどを抑えて、もしやと掌を池の中へ入れてみたが、ベトベトとして餅のようにからまる水は見るからに唐紅からくれない、口へ持って行けば火になりそうだ。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さっ白紗はくしゃの蚊帳に血飛沫ちしぶきが散って、唐紅からくれないの模様を置いた。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
しばらくするとまた唐紅からくれない天道てんとうがのそりとのぼって来た。そうして黙って沈んでしまった。二つとまた勘定した。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかも倒れているその周り、時ならぬ胡粉の雪の白皚々はくがいがいへはベットリながれている唐紅からくれないの小川があった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
物でもすくうように円く曲げ、ドップリと胸腔きょうこうへ差し込んだが、ひじの付け根から爪の先まで、唐紅からくれないに血に染めて、それを再び引き出した時には、軟いドロドロした変な物を
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
切り口にしっかと押しあてた。瞬時に染まる血紅色。手繰たぐるに連れて一丈二丈唐紅からくれないの絹が延びる。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
秋風や唐紅からくれない咽喉仏のどぼとけ
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
床上しょうじょうに横たわった杉窪の銅兵衛、胸の繃帯ほうたい唐紅からくれないだ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お吉は無残唐紅からくれない
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)