合口あいくち)” の例文
時々わっち合口あいくちだもんだから、長次こうと仰しゃってお供で来るけれども、何うかすると日暮ひくれ方から来て戌刻前よつめえけえる事もあるし
そして抽斎に、「どうぞおれに構ってくれるな、己には御新造ごしんぞう合口あいくちだ」といって、書斎に退かしめ、五百と語りつつ飲食のみくいするを例としたそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それは立廻りと七五の台詞せりふとで出来上っている初期の書生芝居だった。短銃と、合口あいくちと、捕縄と、肉襦袢と、白い腹巻とが、そこで演るすべての芝居の要素だった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
白刃を仕込んだ杖! 相手につかませておいて、弦之丞、合口あいくちに掛けていた指をはじくように開いた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お客がまた私の大嫌だいきらいな人で、旦那とは合口あいくちだもんだから、愉快おもしろそうに話してたッけが、私は頭痛がしていた処へ、その声を聞くとなお塩梅が悪くなって、胸は痛む、横腹よこッぱらは筋張るね
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風呂敷包のなかから南蛮鍜なんばんきたえの鎖帷子くさりかたびら筋金すじがねの入りたる鉢巻をして、藤四郎吉光とうしろうよしみつの一刀にせき兼元かねもと無銘摺むめいすり上げの差添さしぞえを差し、合口あいくちを一本呑んで
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「こう見たところでは、ふた合口あいくち異状いじょうはないが」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煙管筒きせるづゝ合口あいくちを仕込んだのを持って居ます。今新助が車に乗る様子を見ていると、表までどろ/\送り出し
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何う云う訳か女の前に文売ふみがらのような物があって、山三郎が覗くとくだんの女は驚きまして山三郎の顔を見るとすぐそばにありました合口あいくちを取って今咽喉笛のどぶえを突きに掛りますから
大藏は四辺あたりを見て油断を見透みすかし、片足げてポーンと雪洞を蹴上けあげましたから転がって、灯火あかりの消えるのを合図にお菊の胸倉をって懐にかくし持ったる合口あいくちを抜く手も見せず
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かついでやろうとか手を引いてやろうとか云った時にも隙があったら、懐から合口あいくちを出してやっちまえ、首尾好く仕遂しおおせれば、神原に話をして手前を士分さむらいに取立てゝやろう、首尾好く殺して
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
懐には合口あいくちをのんで居る位に心掛けて、怪しい者が来ると脊負しょって居る包をねて置いて、懐中の合口を引抜くと云う事で始終山国やまぐにを歩くから油断はしません。よく旅慣れて居るもので御座ります。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
筋金のったる鉢巻を致しまして、無地の眼立たぬ単衣ひとえものに献上の帯をしめて、其の上から上締うわじめを固く致して端折はしおりを高く取りまして、藤四郎吉光の一刀に兼元の差添さしぞえをさし、國俊くにとし合口あいくちを懐に呑み
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)