取返とりかえ)” の例文
「ま、やつと取返とりかえしたが、縄を解いてはならんぞ。もう眼が血走つてゐて、すきがあると駈け出すぢや。エテどのがそれしよびくでの。」
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それでも怪我けがないのが勿怪もっけさいわいで、大事の顔へきずでも付けられようものなら、取返とりかえしが付きゃアしない。何しろ、お葉とか云う奴は呆れた女だ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
モイセイカは今日きょう院長いんちょうのいるために、ニキタが遠慮えんりょしてなに取返とりかえさぬので、もらって雑物ぞうもつを、自分じぶん寝台ねだいうえあらざらひろげて、一つ一つならはじめる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
出来できちまったことは、もう取返とりかえしがつかないんだからね。あのはスープにでもしちまいましょうよ。
それが為めに到頭後に御話するような取返とりかえしのつかない事件をひきおこしてしまったのでした。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いくらかずつ落付おちつきを取返とりかえして、やがて、平静な心持で話しうようになると、何より先に、お鳥の豊満な裸体、月の光にさらされて、ほんのりかすむような美しい身体からだが気になります。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
春見は口へ手を当て様子をうかゞうとすっかり呼吸が止った様子ゆえ、細引をき、懐中へ手を入れ、先刻渡した千円の金を取返とりかえし、たきゞ木片こっぱ死人しびとの上へ積み、縁の下から石炭油せきたんゆびんを出し