半分なかば)” の例文
「頭が痛む。……体が痛む。……訳がわからない。……どうしたのだろう?」半分なかば意識を恢復とりかえした中で山県紋也はこう思った。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
広い客間の日本室を、雛段は半分なかばほども占領している。室の幅一ぱいの雛段の緋毛氈ひもうせんの上に、ところせく、雛人形と調度類が飾られてあった。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
砕けた浪の白漚しらあわは、銀の歯車を巻いて、見るまに馬の脚を噛み、車輪の半分なかばまでかくした。小さいノアの方舟はこぶねが三つ出来る。浪が退いた。馬は平気で濡れた砂の上を進んで来る。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……意識の力はどこまでもハッキリしたまま……うつつともなく、夢ともなく、私の眼の前の床が向うの方に傾くにつれて、半分なかば開いた入口の方向を眼指めざしつつ蹌踉ひょろひょろと歩み出した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
姉夫人は、やっぱり半分なかば隠れたまま
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じつとこらへ六右衞門は主人五兵衞に打向ひさて段々の御立腹りつぷくわびの致し方も之無く候ついては五十兩の引負金ひきおひきん何分なにぶんすぐにはつぐのひ難く暫時御猶豫下いうよくだされたし且又御給金の儀はなかば頂戴仕ちやうだいつかまつり半分なかばは御預け置候故日わり御勘定の程御願ひ申上候當人身分の儀は直樣すぐさま引取一札を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は美味うまい食物によって彼らを釣ろうとしたのであった。彼らは半分なかば人間ではあったが煮焚にたきの術を知らなかった。それを私は利用したのである。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
半分なかば開いた歯を見せた口、鼻の下の薄いひげ、スットけた寂し気な頬など、中将の仮面めんは穏かで且つ優雅ではあったけれど、それがかえって物凄かった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女にしたいような端正の顔が、神経質の細面が、水に濡れた髪で半分なかば蔽われ、さながら水の精のように見えた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
したがってその住居は特別に広く半分なかば以上は岩窟から外へみ出して造られているのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひとしきり展開ひろがったがやがて止み、雨にぬれ足に踏まれしどろに乱れた、芒や萱や藺草いぐさの中に、三本の脚がころがってい、三人の負傷者ておい半分なかば死んで、それが捨てられて燃えている
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もとどり千切れた髪、蒼白な顔、嵐に揉まれる牡丹桜とでも云おうか、友禅の小袖の袖口からは、緋の襲着したぎがこぼれ、半分なかば解けた帯の間からは、身悶えするごとに、鴇色ときいろの帯揚げがはみ出し
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
半分なかば死にはいり、ほとんど人心地のなかったお浦が、今の乱闘騒ぎで、正気を取り戻したらしく、藍のように蒼い顔を、薄暗い梁の下に浮き出させ、血走った眼で、思慕に堪えないように
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
板戸へピッタリ食い付いて一寸ばかり戸をあけたが朱塗りの蘭燈らんとう仄かに点り夢のように美しい部屋の中に一人の若い腰元が半分なかばうとうと睡りながら種彦らしい草双紙を片手に持って読んでいた。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)