十能じゅうのう)” の例文
「一筋の背中の蒲団」と、系統を同じくする笑話の一つに、父よこの村では十能じゅうのうで屋根をふいとるのといったというのもあった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
とうとう十能じゅうのうと火ばしまでが、組になっておどりだしました。でも、このひと組は、はじめひとはねはねると、すぐところんでしまいました。
と、言うのは、昨年の秋実業家の細川卯一郎君、つまり十年前の横綱大錦が、十能じゅうのうのような大きな掌で私をつかまえて
葵原夫人の鯛釣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
かれらは炭取とか十能じゅうのう、めおと箸、箱膳、一反の晒木綿さらしなどに、洗いあげた浴衣が三枚、という祝い物を並べた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
炉の火を大きな十能じゅうのうに取ってくつろぎのへ運び、山家らしい炬燵こたつに夫のからだをあたためさせながら、木曾福島の植松家からあった娘お粂の縁談を語り出すのはお民だ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
色の黒い小女こおんなが、やがてうるし禿げたやうななりで、金盥かなだらいを附けたらうと思ふ、おおき十能じゅうのうに、焚落たきおとしを、ぐわん、とつたのと、片手にすすけた行燈あんどう点灯ともしたのを提げて
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女中が十能じゅうのうを持って這入って来て、「おや」と云った。どうしたわけか、綺麗きれいな分の女中が来たのである。「つい存じませんのでございますから」と云いながら、火鉢に火をけている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
といって、お雪は、ひのし型の十能じゅうのうを差出しました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女は釜戸かまどから、焚きおとしを十能じゅうのうに取り、小部屋の火桶ひおけに入れて、炭をついだ。おみやは包みの中から、なにがしかの金を出し、紙に包んで、女の前へさしだした。
果して、三条ともそろって——しょろしょろと流れている。「旦那だんなさん、お風呂ふろですか。」手拭てぬぐいを持っていたのを見て、ここへ火を直しに、台十能じゅうのうを持って来かかった、お米が声を掛けた。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな一間でも、小さな爐が切ってあって、お神さんが釜の下の焚きおとしを十能じゅうのうに山ほど持ってきてくれたけれど、屋根の穴から通う風に冷やされて、さっぱり室は暖かにならないのである。
酒徒漂泊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今はその意味が不明であるが、是も多分その能率を形容した広告語であろうと思う。ところが後に稲扱器にその御株を取らるるに及んで、大いに謙遜けんそんして十能じゅうのうなどという名に納まろうとしていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おのぶがそこへ、残りの火だねと炭を、十能じゅうのうにのせて持って来た。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)