切子きりこ)” の例文
妾の寝台は隅から隅まで印度インド風でり固まっていた。白いのは天井裏のパンカアと、海月くらげ色に光る切子きりこ硝子のシャンデリヤだけだった。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だいたい五百助の家は年数も知れぬ昔から代々そこで管玉や切子きりこ玉やなつめ玉、臼玉、勾玉まがたま、丸玉などを造っていたと伝説されている。
隣りの家の切子きりこは、石でも当ったように破れていて、誰がこんないたずらをしたんだろうと、おかみさんが言っていたそうです。
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はまたブラッセル産切子きりこ細工の硝子ガラスの指輪を三鞭シャンパングラスのなかへ落してそれが表面に浮いてるように見せる不思議な妖術をも心得ていた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
山川は、グラスをクルクルまわして、切子きりこめんを光らせながら、宝石でもながめるように酒の色に見入っていたが、香気を嗅いで口に含むと
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
夕飯の食卓に、それもハルビン時代のものだというウォツカ用の切子きりこの瓶が出た。それには葡萄酒が入れられていた。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
食卓には、いつも、切子きりこガラスの花瓶に、時節の花が挿してあった。それがどんな花であっても純白の卓布と渋色のパネルによくうつって美しかった。
雑記(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
晩餐の爲めにともされた切子きりこ硝子で飾つた燈の光がにぎやかに部屋にひろがり滿ちてゐた。大きく燃える火は、すつかり眞赤まつかになつてゐて、明るかつた。
男はある骨董店こっとうてんで昔ヴニズの影絵芝居で使った精巧な切子きりこ人形を見付け大金を惜まず買取ってやがて仏蘭西ふらんすの旧邸へ帰る。夫婦の仲はだんだん離れて来る。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
天井からは、華美な切子きりこガラスのシャンデリヤが下がっていた。そのキラキラとまぶしい光に照らされて、左右の壁ぎわにズラリと並んだガラス張りの陳列台。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
同時に又右の松林はひつそりと枝をかはしたまま、丁度細かい切子きりこ硝子をかして見るやうになりはじめた。僕は動悸の高まるのを感じ、何度も道ばたに立ち止まらうとした。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
瓔珞ようらくを垂らした切子きりこ形の、ギヤマン細工の釣り灯籠どうろうが、一基天井から釣り下げられていたが、それの光に照らされながら、いろいろの器具、さまざまの織物、多種多様の道具類
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
切子きりこつぼのような女性ひとだ、いろんな面を見せてふくざつにキラキラしている。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
筆立には二、三本毛筆が挿してある外にペン軸がまじって見える。その横にインキ壺が備えつけてある。朝日が射し込むとそのペン先がたちまち金色に輝き出す。インキ壺の切子きりこの角が閃光を放つ。
天井の中央から下げられた、その吊洋燈つりランプは、切子きりこ硝子で、シャンデリヤの様な豪華な姿を、人々の前に見せていた。そしてそれはツル草を模した金属製の黒光りした鎖で、あげさげする様になっていた。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
青い窓の外は雨の切子きりこ硝子
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
落し物もいろいろあるが、切子きりこ燈籠を往来のまん中に落して行くのは少しおかしいと女房は思った。
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある折は、水をのんだコツプにうつる生々いき/\した愉快な顏——切子きりこの壺に種々な角度からうつるのも面白い。さし出された給仕盆おぼんにうつることもあり、水面みづにうつして妙な顏をして見ることもある。
鏡二題 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
切子きりこつぼばかりも、好いのが沢山あった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)