倔強くっきょう)” の例文
船頭につづく十二人の舟子ふなこは、破船を見捨て、十町も沖から島に泳ぎ着いたというだけあって、いずれも倔強くっきょうな連中ばかりであった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
同時に主人がぬすっとうと怒鳴る声が聞える、見ると制帽をつけた十八九になる倔強くっきょうな奴が一人、四ツ目垣を向うへ乗り越えつつある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眉の濃い、眼の可愛い、倔強くっきょうな田舎者らしい骨格をしながら色の少しあおい、真面目まじめな様で頓興とんきょうな此十七の青年と、著者の家族は大分懇意になった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
倔強くっきょうの車夫を呼び腕車に乗じ、ただちに旅亭を辞し、時刻を移さずして帰省し、父の病をわんとすれば、溘焉こうえんとしてすでに逝き、また浮き世の人にあらず。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
筑紫つくし警部、平岡巡査らは倔強くっきょうの剛力を引率し、一行十二人注意周到なる準備をして、登山し来られたり、そもそも下山は予に於て実に重大の関係あるが故に
倔強くっきょうな体躯に、大反おおぞり打った大小、覆面黒装束ふくめんくろしょうぞくというこしらえも、この男こそふさわしく見えます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船はすべる様に湖水を渡って小さな入江に横付けとなった。彼等は五六階の石段を上って上陸したが、隠れになっていて、品物を運び出すには実に倔強くっきょうの場所であった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
皆んなは思わずえりくびに流込んだ霧雨のしずくをヒヤリと感じて顔を見合せました。丁度いまもその話が出たばかりですし倔強くっきょうな工夫たちもさっと顔が蒼白あおじらんでしまいました。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
まだ夜明け前の広い台所の真中へ三四枚の藁筵わらむしろをひいて、近所の四五人の倔強くっきょうの若者等と大釜の湯を取り分けてた真赤な番茶を、前の夜から焚いて用意して置いた麦飯を
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それでほぼ前世紀犀バルチテリウムが十万年もあとの、洪積層から出た理由も分ります。要するにそこは、人獣ともに害さぬ仏典どおりの世界でしょう。それこそ、つらい現実からのがれる倔強くっきょうな場所です。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
出し抜けに呼びかけられた若者は倔強くっきょう頸筋くびすじを曲げてちょっとこっちを見た。すると小林はすぐさかずきをそっちの方へ出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はしくと、外套がいとう引かけて出た。からだたましい倔強くっきょうな民が、私おとも致しましょう、と提灯ちょうちんともして先きに立つ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
倔強くっきょうなるもの僅かに二人のみ万艱ばんかんを排して始めてその目的を達して来訪せられしにいしかば、予はその当時の病状を決して他に告ぐるなからんことをちかいおきしに
土屋勘解由かげゆ、水野弥一兵衛、庄司しょうじ仙三郎、近藤幹雄みきお中坊陽之助ちゅうぼうようのすけ、長坂血槍九郎、本田龍平、こう七人で、吉宗の弓馬の相手に近ごろ選び出された倔強くっきょうの者たちでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが三度四度と重なるにつけて、四人五人と人相の区別ができるに連れて、この坑夫だけが一際ひときわ目立って見えるようになった。年はまだ三十にはなるまい。体格は倔強くっきょうである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒紋付木綿の綿入にはかま穿いた倔強くっきょうな若い男が六人、歌につれて神前に踊りはじめた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
三人と共に猛烈なる吹雪にさえぎられあるいは依頼品を吹飛ばさるる等、僅かに必要の文書類を、倔強くっきょうなる二人に依頼して持ち行かしめ、他はな八合目の石室せきしつに止まりたりしも如何にも残念なりとて