きっ)” の例文
と、何処でかキャンキャンと二声三声犬の啼声がする……きっと耳を引立ひったって見たが、もう其切それきりで聞えない。隣町あたりでかじけたような物売の声がする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
二匹は思はず左右に分れ、落ちたるものをきっと見れば、今しも二匹がうわさしたる、かの阿駒なりけるが。なにとかしたりけん、口より血おびただしく流れいずるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
余「では其の人の住所姓名を聞かせて下さい」穴川「きっと其の人の所へ行くと約束しますか」余「します」穴川
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「ま、ま、待ちおれうぬ。」と摺下ずりさがりたる袴のすそふみしだき、どさくさと追来る間に、婦人おんなは綾子の書斎へ推込おしこみ、火桶の前に突立つったてば、振返る夫人の顔と、眼を見合せてきっとなりぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとお勢はきっと振向いて、可畏こわらしい眼付をして文三をめ出した。その容子ようすが常で無いから、お鍋はふと笑いんでもッけな顔をする。文三は色を失ッた……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
黄金丸はいと不憫ふびんに思ひ、くだんの雌鼠を小脇こわきかばひ、そも何者に追はれしにやと、彼方かなたきっト見やれば、れたる板戸の陰に身を忍ばせて、此方こなたうかがふ一匹の黒猫あり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
余は彼をきっと見詰て
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
彼方あなたの山をきっにらめつ、「さては今宵彼の洞にて、金眸はじめ配下の獣酒宴さかもりなしてたわぶれゐるとや。時節到来今宵こそ。宿願成就する時なれ。阿那あな喜ばしやうれしや」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
が、若い女は何処となく好くて、私がうッかりかおを視ている所を、不意に其面そのかお此方こちらを向いたのだから、私は驚いた。驚いて又俯向うつむいて、膝前一尺通りの処をきっと視据えた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そのお政の半面よこがおを文三はこわらしい顔をしてきっ睨付ねめつけ、何事をか言わんとしたが……気を取直して莞爾にっこり微笑したつもりでも顔へあらわれたところは苦笑い、震声ふるいごえとも附かず笑声わらいごえとも附かぬ声で
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こもの下から犬の尻尾とか足とかが見えていたというけれど、私が其時きっと目を据えて視たのでは、唯車が躍ってこもが魂の有るようにゆさゆさとゆれるのが見えたばかりで、ほかには何も見えなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)