乱杭歯らんぐいば)” の例文
旧字:亂杭齒
みると、黒衣こくい妖婆ようば。——晴季のッ先をびのくが早いか、乱杭歯らんぐいばの口を、カッと開いて、ピラピラピラピラ! と目にもとまらぬはりをふいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すがめを光らせて、周囲まわりの人々を見た。苦笑とも欠伸あくびともつかず、口をあけた。煙草で染まった大きな乱杭歯らんぐいばが見える。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
追従笑ついしょうわらいの大口を開くと歯茎が鼻の上まではだけて、鉄漿おはぐろげた乱杭歯らんぐいばの間から咽喉のどが見える。おびえたもんですぜ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
躯は骨ばかりのようにせて、落ちくぼんだ眼ばかりが大きく、月代さかやきの伸びた灰色の髪はまばらで、まくれあがった上唇の下に、大きな乱杭歯らんぐいばがむきだされていた。
色が土人のように黒くて乱杭歯らんぐいばであること、二年も前に拵えた甚だ振わない紺の背広を着ていることなどを考えたので、顔がカッカッと火照ほてって来て、体中に胴ぶるいが来て
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
顔はと云うと、しわだらけの渋紙色しぶかみいろの中に、お玉じゃくしの恰好をした、キョロンとした目が飛出し、唇が当り前でないと見えて、長い黄色い乱杭歯らんぐいばが、いつでも現われている。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
黄色い大きな乱杭歯らんぐいばや、それらの一つ一つを、彼は毎日鏡を見ながら呪った。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
またあのざらざらした鮫肌さめはだや、くさい大蒜にんにくの匂いのした舌や、べったり髪にくっついた油や、長い爪や、咬みつく尖った乱杭歯らんぐいばやが——と思うと、もう彼女はあきらめきった病人のように
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
黒檜くろべもみや白樺が、こんもりと茂っている、その凹んだ鞍のような路から、左の小高い崖に登って向うの谷を見ると、大なる穂高山は、乱杭歯らんぐいばのような肩壁を張りつめて、奥の穂高とおぼしきは
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
のこぎり歯というよりは乱杭歯らんぐいばのような凹凸おうとつが見える。
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「食い反らせた乱杭歯らんぐいば!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
歯までが、乱杭歯らんぐいばで、黄いろくて、汚い口であるが、その顔は神色自若しんしょくじじゃくとして、わずかの愛嬌さえたたえていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眉は歪み、眼はくぼみ、獅子っ鼻に口は大きく額部が抜け上って乱杭歯らんぐいば、般若の面のような顔がひとつ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
パクパクと、乱杭歯らんぐいばの口をあけた。声は、しゃがれて、やすりで骨をくような、ふしぎなひびき。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三、四本の乱杭歯らんぐいばの間を、でたりはいったりしているのは、たしかに四、五十本の縫針ぬいばりだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)