上瞼うわまぶた)” の例文
そんなときの克子は、上瞼うわまぶたを伏せてめくら特有のくまどったような目つきをし、今にも泣きだしそうに口尻を細かくふるわせていた。
赤いステッキ (新字新仮名) / 壺井栄(著)
順作はしかたなしにそう云って父親の小さなきいろな顔を見た時、その左の眼の上瞼うわまぶたの青黒くれあがっているのに気がいた。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
眼は細く開いていて、瞳が上瞼うわまぶたに隠され、白眼ばかりが、水気を帯びた剃刀かみそり刀身かのように、凄く鋭く輝いて見えた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その方法を見ていると、両眼りょうがん上瞼うわまぶたを上から下へとでて、主人がすでに眼をねむっているにもかかわらず、しきりに同じ方向へくせを付けたがっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして両手をポケットに突込んだまま、ジット私を見下しているらしく、爪先を揃えたスリッパ兼用の靴が、私の上瞼うわまぶたの下に並んだまま動かなくなった。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかるに白鳳以後の彫像(薬師寺三尊、同聖観音しょうかんのん、三月堂本尊、同両脇侍りょうわきじ聖林寺しょうりんじ十一面観音等)になると、上瞼うわまぶたの線はあの、初めに隆起して中ほどに沈み
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
女はまゆをしかめ、力をこめて眼をつむっていた。力をこめているために、上瞼うわまぶたにも皺がよっていた。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
事実、柚木はもとよりいい体格の青年が、ふーと膨れるように脂肪がついて、坊ちゃんらしくなり、茶色の瞳の眼の上瞼うわまぶたれ具合や、顎が二重にくくれて来たところにつやめいたいろさえつけていた。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もう両眼の虹彩こうさい上瞼うわまぶたに隠れてしまっていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
上瞼うわまぶたが弓形を作り、下瞼が一文字をなした、潤みを持った妖艶な眼は、いわゆる立派な毒婦型であったが、今はその眼がうつろのように、光もなく見開かれていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ばかばかしく広い上瞼うわまぶた、それに釣り合うような異常に長い眼、そうして顔全体の印象をそこに集めても行きそうな大きい口、——すべてが部分的に拡大せられている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
二三度上瞼うわまぶたと下瞼を打ち合して見たが、依然として、視覚はぼうっとしている。五寸と離れない壁さえたしかには分らない。手の甲でこすろうと思うが、あやにく両方ともふさがっている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事実、柚木はもとよりいい体格の青年が、ふーっとふくれるように脂肪がついて、坊ちゃんらしくなり、茶色の瞳の眼の上瞼うわまぶたれ具合や、あごが二重にくびれて来たところにつやめいたいろさえつけていた。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
色白で円顔で、鼻高く唇薄く臙脂べにけたように真紅である。そうしてその眼は切れ長であったが、気味の悪い三白眼で、絶えず瞳の半分が上瞼うわまぶたに隠されている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すなわち眼つきは半弓型で、上瞼うわまぶたが波形をなしていた。しかし下瞼はゆるみのない、ピンと張り切った一文字で、心持ち眼尻が上がっているかしら? が権高けんだかには見えなかった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
べにをさした玉虫色の口、それから剃り落とした青い眉、顔の造作は見事であったが、とりわけ眼立つのはその眼であって、上瞼うわまぶたが弓形をなし、下瞼が一文字を作った、びっくりするほど切れ長の眼は
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)