万屋よろずや)” の例文
旧字:萬屋
駿河するがの府中まで来ると遊行上人の一行は、世の常の托鉢僧たくはつそうのような具合にして、伝馬町の万屋よろずやというのへ草鞋わらじを脱いでしまいます。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「中津川の万屋よろずやから届けて来たんですよ。安兵衛やすべえさんが京都の方へ商法あきないの用で行った時に、これを預かって来たそうですよ。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの万屋よろずやのけちな大旦那に見込まれたほどの男である、なあに、金なんてものは、その気にさえなれあ、いくらでも、もうけられるものだ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
道傍の万屋よろずやの、下駄も小ぎれも瀬戸物も売って居るような軒先にも二三本梅があって、そのまばらな白い花が澄んだ青空の下にくっきり映えて居る。
(新字新仮名) / 岩本素白(著)
理髪所とこやの隣に万屋よろずやあり、万屋の隣に農家あり、農家の前にはむしろ敷きてわらべねこと仲よく遊べる、茅屋くさやの軒先には羽虫はむしの群れ輪をなして飛ぶが夕日に映りたる
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いつもは真面目な顔をして、ご用を聞いている、八百屋やおや万屋よろずやまでも、仲間入りをして、一そうに笑いくずれているために、玄関に案内の声のあるのも耳にはいらず
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
有名なおてつ牡丹餅ぼたもちの店は、わたしの町内の角に存していたが、今は万屋よろずやという酒舗さかやになっている。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いまその角に「梅園うめぞの」のある横町、右へとんで蕎麦屋の「万屋よろずや」の横町——それらの往来すべてがつい十四五年前まで、おかしいほど「仲見世」の恩恵をうけていなかったのである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
争い合っていると、町の万屋よろずやから、何か買物をして出て来た五十近い田舎者いなかものの女が
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
照天姫てるてひめが判官を尋ぬる事を作り、ヴィナスがサイケに七種の穀物を混ぜるを、短時間に選別えりわけしむるに倣って、万屋よろずやの長が、姫に七所の釜の火を断えずかせ、遠方より七桶の水を汲ませ
小供の時分、門前に万屋よろずやと云う酒屋があって、そこに御倉おくらさんと云う娘がいた。この御倉さんが、静かな春の昼過ぎになると、必ず長唄の御浚おさらいをする。御浚が始まると、余は庭へ出る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あらたにできた万屋よろずや対小商人の確執が燃え上がろうとしているのだ。生活を脅威された金剛寺門前町の小あきんどたちが共通の恐慌によって、こうして団結し、画策しつつある。不穏な状態である。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三ツ辻、俗に鍵屋の辻ともいうが突当りが石垣で、右角の茶店が万屋よろずや喜右衛門、右へ曲ると塔世坂とうせざかという坂があって町へ入る。左角が鍵屋三右衛門、角を折れると北谷口から城の裏へ出る事が出来る。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
算盤そろばんを持たずして万屋よろずやの商売をなすがごとし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「うん、大変だ。ほら、浅草の八階もある万屋よろずや呉服店のビルディングに落ちたのが一トン爆弾だよ。地下室まで抜けちまって、四階から上なんざ影も形もなくなり、その下の方は飴のように曲ってしまって骨ばかりなんだ。そりゃひどいものだよ」
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
えゝ、お連れさまは中津川の万屋よろずやさんたちで。あれは横浜貿易の始まった年でした。あの時は神奈川かながわ牡丹屋ぼたんやへも手前どもから御案内いたしましたっけ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかもその媒妁ばいしゃくに立ったのは、お峰の伯父にあたる四谷大木戸前の万屋よろずやという酒屋の亭主で、世間にあり触れた不誠意の媒妁口ではないと思われるので、近江屋の夫婦も心が動いた。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蔵合さまには及びもないが、せめて成りたや万屋よろずや
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
宮川寛斎みやがわかんさい万屋よろずやの主人と手代とを神奈川かながわに残して置いて帰国の途に上ったことは、早く美濃みのの方へ知れた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おてつ牡丹餅の跡へは、万屋よろずやという酒屋が移って来て、家屋も全部新築して今日こんにちまで繁昌している。おてつ親子は麻布の方へ引越したとか聞いているが、その後の消息は絶えてしまった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今度一緒に来た万屋よろずやの主人は日ごろ彼が世話になる病院先のことであり、生糸売り込みもよほどの高に上ろうとの見込みから、彼の力にできるだけの手伝いもして
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おてつ牡丹餅の跡へは、万屋よろずやという酒屋が移って来て、家屋も全部新築して今日まで繁昌はんじょうしている。おてつ親子は麻布あざぶの方へ引っ越したとか聞いているが、その後の消息は絶えてしまった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼の日課は開港場の商況を調べて、それを中津川の方へ報告することで、その都度つど万屋よろずやからの音信にも接したが、かんじんの安兵衛らはまだいつ神奈川へ出向いて来るともわからない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
外神田に万屋よろずやという蝋燭問屋がある。
万屋よろずやさんもどうなすったでしょう。」と隠居が言う。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)