万一もし)” の例文
旧字:萬一
しかしそのうちに、ひとりでに内側から破れるであろう、万一もし早まって割ったりしては大変だ……と我慢しいしい抱いておりました。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
「は。なれど万一もし生きておりますると、お顔をさらすは不得策かと存じます。まずこの頭巾ずきんにてお包みなされて」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こうしてああしてこうして、と独りほくほくうなずきて、帳場に坐りて脂下やにさがり、婦人をうかがう曲者などの、万一もしきたることもやあらむと、内外に心を配りいる。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云いながらあと退さがるから、岩越という柔術家やわらとり万一もし逃げにかゝったら引倒して息の根を止めようと思って控えて居ります。後へ退って大藏がすゞりを引寄せてふるえながらしたゝめて差出す。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
万一もし手をつける者があると阿芳の怨霊にたたられると云われていた。
阿芳の怨霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まきやのお出額でこのやうなが万一もし来ようなら、じきさま追出して家へは入れてらないや、己らは痘痕あばた湿しつつかきは大嫌ひと力を入れるに、主人あるじの女は吹出して、それでも正さん宜く私が店へ来て下さるの
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
然し之で万一もし駄目だとなりゃ、此世は真暗闇だぜ
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
「ねえお姉様。あの万一もし、看護婦が駄目だったら女中にでも使って遣りましょうよ。ねえ、可哀そうですから」
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さるにても万一もしわがみいだすを待ちてあらばいつまでも出でくることを得ざるべし、それもまたはかり難しと、心迷いて、とつ、おいつ、いたずらに立ちてこうずる折しも、いずくよりきたりしとも見えず
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万一もし正木博士の話が真実とすれば、やはりこの絵巻物から引き起された事件に相違ないので、結局するところ、一切の摩訶まか不思議を支配する中心的の魔力は
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さるにても万一もしわがみいだすを待ちてあらばいつまでもでくることを得ざるべし、それもまたはかりがたしと、こころまよひて、とつ、おいつ、いたずらに立ちてこうずる折しも、何処いずくよりきたりしとも見えず
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
万一もし、そんな事をし出かしたアトで、救いの舟が来たらどうしよう…………という心配に打たれていることが、何にも云わないまんまに、二人同志の心によくわかっているのでした。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)