一鉢ひとはち)” の例文
なつは、水草みずくさはいいものだ。あれを一鉢ひとはちってもわるくないな。」と、わらいながら、おきゃくはなしとはまったく関係かんけいなしにかんがえていたのでした。
ガラス窓の河骨 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だから、する事が、ちつともしまりがない。縁日へひやかしになど行くと、急に思ひ出した様に、先生松を一鉢ひとはち御買ひなさいなんて妙な事を云ふ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
四月の末には彼女はリリスの花を一鉢ひとはち持って来て置いて行ったこともあった。五月に入っても未だ彼女は通って来ていて、その月の末までは顔を見せた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が、それは中庭といっても、狭苦しくって、樹木なんぞは一本もうわっていず、ただ空箱の上に一鉢ひとはちの菊が置かれてあるっきりだった。しかもそれすらきたならしく枯れたまんまだった。……
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その娘っ児も、二カ月前まではおとなしく屋根裏に住んで、胸衣の穴に銅の小さなをつけていたんだぜ。そして針仕事をし、たたみ寝台に寝、一鉢ひとはちの花のそばにいて、満足していたんだ。
となり同士どうしだから、時々ときどきくちをききなかで、ことに一昨日おとといは、わたし丹精たんせいしたぼたんのはないたものですから、それを一鉢ひとはちわけてつてつてやり、にわでちよつとのうち、立話たちばなしをしたくらいです。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
子供等は離座敷はなれの縁先に集まって、節子姉弟きょうだい一鉢ひとはちずつげて来てくれた朝顔を見ていた。岸本もその花のすがたを見に行って、それから部屋の方へ二人の子供を呼んだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
縁日へひやかしになど行くと、急に思い出したように、先生松を一鉢ひとはちお買いなさいなんて妙なことを言う。そうして買うともなんとも言わないうちに値切ねぎって買ってしまう。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大資産家だいしさんかなららず、そうでないものが、一万円まんえんのらんをもとめるというのは、よほどの好者こうしゃですね。それも全財産ぜんざいさんをただの一鉢ひとはちのらんにえたというのですから、おどろくじゃありませんか。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たまには夜店で掛物をひやかしたり、盆栽の一鉢ひとはちくらい眺める風流心はあるかも知れない。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ああ、これは、いいものがにはいった。」といって、おじいさんはまり一鉢ひとはちって、よろこんでいえかえりました。おじいさんは、それにみずをやり、日当ひあたりのいいところへしてやりました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)