一脈いちみゃく)” の例文
「たとへ法然上人ほうねんしょうにんにすかされまゐらせて念仏して地獄じごくにおちたりとも、さらに後悔こうかいすべからずさふらふ」という親鸞しんらんの言葉と、一脈いちみゃく相通あいつうずるところがあるからなのかもしれない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
れば池のふちなるれ土を、五六寸離れて立つ霧の中に、唱名しょうみょうの声、りんの音、深川木場のお柳が姉のかどまぎれはない。しかおもてを打つ一脈いちみゃく線香せんこうにおいに、学士はハッと我に返った。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
静かなる事さだまって、静かなるうちに、わが一脈いちみゃくの命をたくすると知った時、この大乾坤だいけんこんのいずくにかかよう、わが血潮は、粛々しゅくしゅくと動くにもかかわらず、音なくして寂定裏じゃくじょうり形骸けいがい土木視どぼくしして
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭巾ずきん黒く、外套がいとう黒く、おもておおひ、身躰からだを包みて、長靴を穿うがちたるが、わずかこうべを動かして、きっとその感謝状に眼を注ぎつ。こまやかなる一脈いちみゃくの煙はかれ唇辺くちびるめて渦巻うずまきつつ葉巻はまきかおり高かりけり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)