一生涯いっしょうがい)” の例文
なんでも、ひどくむずかしい暗号で、一生涯いっしょうがいかかっても、どうしても、そこに書いてある意味を知ることができなかったのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その静穏の日がすなわち余の一生涯いっしょうがいにあって最も恐るべき危険の日であったのだと云う事を後から知った時、余はしものような詩を作った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はこのような病身なのですから、一生涯いっしょうがいほとんど病院暮らしをせねばならぬかもしれません。また私の生涯は長いものではありますまい。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
祖母が糸車で一生涯いっしょうがいかかって紡ぎ得たであろうと思う糸の量が数え切れない機械の紡錘から短時間に一度に流れ出していた。
糸車 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
国の昔の交通のあとを明らかにし、昔の人の心持こころもちをよく理解し、またそれを一生涯いっしょうがい、おぼえていることもらくなのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「小さい時にどんな教育を受けたかという事でもう、その人の一生涯いっしょうがいがきまってしまうのだからね。もっと偉い大人物を配すべきだと思うんだ。」
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
地球にあるものでいうなら、ホヤという動物は、岩の上にとりつくと、一生涯いっしょうがいそこを動かない。それに反して植物のハエトリ草はさかんに動きます。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おそらく一生涯いっしょうがいの落ちつく先をちらとでも見たいのだ、ばかばかしい話だが、そんなふうに言うよりほかはない。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
程経て春琴が起き出でた頃手さぐりしながらおくの間に行きお師匠様私はめしいになりました。もう一生涯いっしょうがいお顔を見ることはござりませぬと彼女の前にぬかずいて云った。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なさろうと、たとえどんなに僕がいじめられたろうと、僕は一生涯いっしょうがいあなたを愛します、崇拝すうはいします
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「それは小気味の良い匂いじゃよ。一度その匂いを嗅いだ者は、一生涯いっしょうがい忘れることは出来ぬ。それは素敵もない匂いなのじゃ……おおまた聞こえて来た、聞こえて来た」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
葉子は自分がなんとかして木村にそりを合わせる努力をしたならば、一生涯いっしょうがい木村と連れ添って、普通の夫婦のような生活ができないものでもないと一時思うまでになっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そうした血統上の痕跡こんせきは、何よりも雄弁ゆうべんにツルゲーネフの生活(彼は一生涯いっしょうがい独身で押し通しました)が物語っているのですが、文芸作品の面から言うと、ここに訳出した短編『はつ恋』に
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
文麻呂 (苛々いらいらして)さあ、元気を出そう、元気を! 天が与えてくれたこの機会を利用しなければ、君の恋も、僕の復讐ふくしゅうも、一生涯いっしょうがい実現出来ないようなことにならないとも限らないんだぜ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
僕は一生涯いっしょうがいこの高原から下らないかもしれない。……
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
人生の愛と運命と悲哀と——あなたがたの一生涯いっしょうがいかかって体験なさる内容を一つの簡単な形に煮詰めて盛り込んであるのです。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そのモリ木を大せつに一生涯いっしょうがいしまって置いて、死んだら火葬かそうまきに使うものだった、というような話もつたわっているが、それはただ一つの話かもしれない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一生涯いっしょうがいの狂人はかえって出来安いが、筆をって紙に向うあいだだけ気違にするのは、いかに巧者こうしゃな神様でもよほど骨が折れると見えて、なかなかこしらえて見せない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一生涯いっしょうがい、助け合って努めて、そうして成功しよう。お母さんだって、いつも、「兄弟仲良く」とおっしゃっているのだ。お母さんも、きっと喜んでくれるだろう。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これは芭蕉の一生涯いっしょうがいの総決算でありレジュメであると同時にまたすべての人間の一生涯のたそがれにおける感慨でなければならない。それはとにかく、自分の子供の時分のことである。
思い出草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
親方は一生涯いっしょうがい忘れることができなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僧一 昔からの開山たちが、一生涯いっしょうがい貧しくしかも悠々ゆうゆうとして富めるがごとき風があったのは、昔心の中にこの踴躍歓喜ゆやくかんぎの情があったからであると思います。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
さて、それから僕は一生涯いっしょうがいの不動の目標を樹立して進まなければならぬのだが、これが、むずかしい問題なのだ。一体どうすればいいのか、僕には、さっぱりわからない。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「さあ一生涯いっしょうがいの事を一度に聞いておいても損はないが、それよりか今ここでどうしたらいいか、その方をきめてかかる方が僕には大切らしいから、まあそれを一つ願おう」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だがあれは他人の運命をそこのうたのだからな。一人の可憐かれんな女は死んだ。一人の善良な青年の心は一生涯いっしょうがい破れてしまった。幾つかの家族の間には平和が失われた。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)