-
トップ
>
-
みかへ
見返り/\
稍影さへも
見ざれば
後ろ
髮をや引れけん一
足行ば二足も
戻る心地の氣を
勵まし三河の岩井を
後になし江戸を
見返ると、
黒に
黄色の
縞のある
大柄の
蜂で、一
度高く
飛び
上つたのがまた
竹の
根元に
降りて
來た。と、
地面から一
尺ほどの
高さの
竹の
皮の
間に
蜘蛛の
死骸が
挾んである。
船は
秒一秒に
沈んで
行く、
甲板の
叫喚はます/\
激しくなつた。
終に「
端艇下せい。」の
號令は
響いて、
第一の
端艇は
波上に
降下つた。
此時私は
春枝夫人を
見返つたのである。