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けふり
一片の
焔は
烈々として、白く
颺るものは宮の思の何か、黒く
壊落つるものは宮が心の何か、彼は
幾年の
悲と悔とは嬉くも今その人の手に在りながら、すげなき
烟と消えて跡無くなりぬ。
盡しけれ共其
驗なく
終に享保元年八月十八日歸らぬ旅に
赴きけり
因て女房おもせは深く
歎きしが今更
詮なきことと村中の者共打
寄て成田村なる
九品寺へ
葬送なし一
偏の
烟として
跡懇切に
弔ひたり此おもせは
至て
貞節者にて男
勝りなりければ未だ
年若なれども
後家を
蝋燭の
焔と炭火の熱と
多人数の
熱蒸と混じたる一種の
温気は
殆ど凝りて動かざる一間の内を、
莨の
煙と
燈火の油煙とは
更に
縺れて渦巻きつつ立迷へり。
さしも息苦き
温気も、
咽ばさるる
煙の渦も、皆狂して知らざる如く、
寧ろ喜びて
罵り
喚く声、
笑頽るる声、
捩合ひ、
踏破く
犇き、一斉に揚ぐる
響動など
貫一は
為う事無しに
煙を吹きつつ、この
赤樫の客間を夜目ながら
眗しつ。