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おもてにかい
……と
表二階、
三十室ばかり、かぎの
手にづらりと
並んだ、いぬゐの
角の
欄干にもたれて
見まはした
所、
私の
乏しい
經驗によれば、
確にみゝづくが
鳴きさうである。
私は
身を
飜して、
裏窓の
障子を
開けた。こゝで、
一寸恥を
言はねば
理の
聞えない
迷信がある。
私は
表二階の
空を
眺めて、その
足で
直に
裏窓を
覗くのを
不斷から
憚るのである。
暑さに一
枚しめ
殘した
表二階の
雨戸の
隙間から
覗くと、
大空ばかりは
雲が
走つて、
白々と、
音のない
波かと
寄せて、
通りを
一ツ
隔てた、
向うの
邸の
板塀越に、
裏葉の
飜つて
早や
秋の
見ゆる