つち)” の例文
つち一升、かね一升の日本橋あたりで生れたものは、さぞ自然に恵まれまいと思われもしようが、全くあたしたちは生花きばな一片ひとひらも愛した。
そのひかりは、なかばつちにうずもれているためか、それほどのつよかがやきではなかったけれど、かれ注意ちゅういをひくに十ぶんだったのであります。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
つちうへらばつてゐる書類しよるゐ一纏ひとまとめにして、文庫ぶんこなかれて、しもどろよごれたまゝ宗助そうすけ勝手口かつてぐちまでつてた。腰障子こししやうじけて、きよ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
にがい/\くすりでしたが、おなかいたときなぞにそれをむとすぐなほりました。おくすりはあんなたかやまつちなかにもしまつてあるのですね。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
つち土用が過ぎて、肥料こやしつけの馬の手綱を執る樣になると、もう自づと男羞しい少女心が萠して來て、盆の踊に夜を明すのが何より樂しい。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
丘窪の冬の棚田たなだはねもごろにうれしき棚田。寂び寂びて明るき棚田。たまさかに鶸茶の刈田、小豆いろ、温かきいろ、うち湿しめる珈琲のつち
法被はつぴてらとも棺桶くわんをけいた半反はんだん白木綿しろもめんをとつて挾箱はさんばこいれた。やが棺桶くわんをけ荒繩あらなはでさげてあかつちそこみつけられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
為様しやうがないねえ、)といひながら、かなぐるやうにして、細帯ほそおびきかけた、片端かたはしつちかうとするのを、掻取かいとつて一寸ちよいと猶予ためらふ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それらの器物きぶつ今日こんにちではたいていつちうづもれてえなくなつたり、こはれてなくなつてしまつて、のこつてゐるものははなはすくないのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
縁側に腰かけて、ジャピイの頭をでてやりながら、目にみる青葉を見ていると、情なくなって、つちの上に坐りたいような気持になった。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おや/\とおもひながら、なほねんれてつちつてると、把手とつての一のみけて完全くわんぜんなる土瓶どびんであつた。(第三圖イ參照)
まづしい店前みせさきにはおほがめかふわに剥製はくせい不恰好ぶかっかううをかはつるして、周圍まはりたなには空箱からばこ緑色りょくしょくつちつぼおよ膀胱ばうくわうびた種子たね使つかのこりの結繩ゆはへなは
夢中むちゅうはらったおれん片袖かたそでは、稲穂いなほのように侍女じじょのこって、もなくつちってゆく白臘はくろうあしが、夕闇ゆうやみなかにほのかにしろかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
受し者なればお里のお豐は洗濯せんたくをし又惣内の甚兵衞は日傭ひよう駈歩行かけあるき手紙使てがみづかひつちこね草履ざうり取又は荷物にもつかつぎ何事に依ず追取稼おつとりかせぎを爲し漸々其日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
太い女だ、ひどいやつがあるもんだ、どうかしてもう一度江戸えどつちみ、女房にようばうつて死にたいものだ、お祖師様そしさまばちでもあたつたのかしら。
診察しんさつせし窒扶斯患者ちぶすくわんじや感染かんぜんして、しや三十路みそぢにたらぬわかざかりを北海道ほくかいだうつちしぬ、かぜ便たよりにこれをきしおそのこヽろ
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
左の手にはわき雷居り、右の手にはつち雷居り、左の足にはなる雷居り、右の足にはふし雷居り、并はせて八くさの雷神成り居りき。
そして、ちよつといきれたやうな樣子やうすをすると、今度こんどはまたあたま前脚まへあしさかんうごかしながらかへしたつちあなした。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ふねができがると、うさぎは木のふねりました。たぬきはつちの舟にりました。べつべつにふねをこいでおきへ出ますと
かちかち山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ほるとはぶなの木にて作りたる木鋤こすきにてつちほるごとくして取捨とりすつるを里言りげんに雪を掘といふ、すでに初編にもいへり。かやうにせざれば雪のおもきいへつぶすゆゑなり。
かうなると大雨おほあめるたびに、やまつちすなはどん/\ながれおち、またおそろしい洪水こうずいがおこるようになりました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
平次は手に取つて見ましたが、それは極めて良質の小判で、少しつちが附いて居る外には何んの變りもありません。
金魚鉢きんぎょばちは、ぐるりに、しろすなをしきつめてある。すなをはらいのけると、めたとせたはちが、すぽりとつちからきとれるようになつているのがわかつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
そのとき、盛遠のひとみは、つちくれに近い亡骸なきがらから、突然、はるかな空へ、ひかれていた。——いつか、かれの真正面に、まっな太陽が、さし昇っていた。
おゝこの集団しふだん姿すがたあらはすところ、中国ちうごく日本にほん圧制者あつせいしゃにぎり、犠牲ぎせいの××(1)は二十二しやうつちめた
このときなみだはらはらといてた。地面ぢめんせ、気味きびわるくちびるではあるが、つちうへ接吻せつぷんして大声おほごゑさけんだ。
アンモニアはほねからとりますが、ほねのかわりに、うまのつめのけずりくずを、たくさんもらってきて、とっくりのなかれ、そとがわにつちをぬりました。
本文ほんもんにはさんだ、三葉さんえふ銅版画どうばんぐわの中には、「英国俳優ヂオフライ空窖くうかう幽囚いうしうせられたる図」と云ふのがある。そのが又どう見ても、つちらう景清かげきよと云ふ気がする。
本の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大体だいたい地上ちじょう庭園ていえんとさしたる相違そういもございませぬが、ただあんなにもえた草木そうもくいろ、あんなにもかんばしいつちにおいは、地上ちじょう何所どこにも見受みうけることはできませぬ。
然るに又一方に於て福地のプクは、韓語のフーク又はフク即ちつちに通じ、チは蒙古語では人の義であるが、日韓共に威力ある神霊の尊称又は貴人の敬称となっている。
マル及ムレについて (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そして 一休いっきゅうさんは、日本にほん一 とくの たかい おしょうさんと して、ひとびとに したわれながら、八十八さいのとし、ついに、たまぎむらの つちとなりました。
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
「社長室へ呼ばれたこと丈けは確かだね。先刻廊下で行き会った時、顔色がんしょくつちの如くだったもの」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こう気づいてからは大師だいしなどはつちかわらのように思われ、心持ちが全然変わった(随聞記第四)。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
つちつちデ凡テ土ニ就テ生ズルモノヲ形容シテつちト云ツタためシハ頓医抄ニ「土いちごは蛇苺へびいちごにして」トアリ、又ぬすびとのあしノコトヲ本草類編ニつちとちナドヽ云ツテアル
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
全体、あれ程立派な藝術的作品の、影響を受けて居るはずの自然派の作家に、どうしてあんなつちくさい、野暮やぼッたらしいまずい小説が書けるのか、己には実際不思議でならない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
母に催促されて、わたくしは慌てて縁側へつち焼きの豚を持ち出して、いつものように蚊いぶしに取りかかりましたが、その煙りが今夜は取分けて眼にしみるように思われました。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
土鼠もぐらつちなかをもくもくつてきますと、こつりと鼻頭はながしらツつけました。うまいぞ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
木立こだちわづかにきたる所に、つちたかみたるが上に、石を三かさねにたたみなしたるが、二三荊蕀うばら薜蘿かづらにうづもれてうらがなしきを、これならん御墓みはかにやと心もかきくらまされて
政友会の三つち忠造ちゆうざう氏が、会の本部で退屈しのぎに、ズウデルマンの『マグダ』を読んでゐた事があつた。『マグダ』は言ふ迄もなく、松井須磨子の出世狂言として名高いしばゐである。
耶蘇教はつよく、仏教は陰気いんきくさく、神道に湿しめりが無い。かの大なる母教祖ははきょうそ胎内たいないから生れ出た、陽気で簡明切実せつじつな平和の天理教が、つちの人なる農家に多くの信徒をつは尤である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すんほどにのびた院内ゐんない若草わかぐさが、下駄げたやはらかくれて、つちしめりがしつとりとうるほひをつてゐる。かすかなかぜきつけられて、あめいとはさわ/\とかさち、にぎつたうるほす。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ちょいちょい話し、出かけて、アルバートで、見そこなって居た「つち」を見た。
でし月影に一名の曲者くせものくわふるって新仏にいぼとけつちまんじゅうを発掘せる有様を認め腰を抜かさんばかりに打驚うちおどろき泥坊泥坊とよばわりければ曲者もびっくり仰天ぎょうてん雲を霞とにげ失せたり届けいでにより時を
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
六七年も、洋服を着て暖かい日向ひなたを選み/\坊ちゃん嬢ちゃんの草花いじりの相手をしてなまってしまったこの身体が、どうして再びあの吹きさらしとつちの世界へ、苦痛に噛まれに戻れよう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
至誠心しじょうしんと申候。この心のまことにて。念仏すれば臨終に来迎らいごうすという事を。一心もうたがわぬ方を。深心じんしんとは申し候。このうえわが身もかのつちへむまれんとおもい。行業ぎょうごうをも往生のためとむくるを。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
石器は何石を以ても隨意ずゐゐつくるを得と云ふものに非ず。土器も亦いづれのつちにてもつくるを得と云ふものにあらず。且つ石器を造るには夫々の道具どうぐ有るべく、土器どきつくるに於ては之を塲所ばしよやうす。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
さてりよ台州たいしう著任ちやくにんしてから三日目かめになつた。長安ちやうあん北支那きたしな土埃つちほこりかぶつて、にごつたみづんでゐたをとこ台州たいしう中央支那ちゆうあうしなえたつちみ、んだみづむことになつたので、上機嫌じやうきげんである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
つち空気くうきや水のいぶき、またはやみの中にうごめいてる、んだりはったりおよいだりしているちいさな生物いきものの、歌やさけびや音、または晴天せいてんや雨の前兆ぜんちょう、またはよる交響曲シンフォニーかぞえきれないほどの楽器がっきなど
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
もれ日はしめれるつちの一ところかすかなる虫の遊ばむとする
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それからつちはもう占めておいでになります。6030