鼻洟はな)” の例文
あれが修業に出た時分は、旦那さんも私もやはり東京に居た頃で、丁度一年ばかり一緒に暮したが……あの頃は、お前、まだ彼が鼻洟はな
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぼろぼろの襤褸つづれを着て、青い鼻洟はならして、結う油もない頭髪を手拭てぬぐいで広く巻いて、叔父の子を背負いながら、村の鎮守で終日田舎唄いなかうたを唄うころは無邪気であった。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
が、重い硝子戸ガラスどは中々思ふやうにあがらないらしい。あのひびだらけの頬はいよいよ赤くなつて、時々鼻洟はなをすすりこむ音が、小さな息の切れる声と一しよに、せはしなく耳へはいつて来る。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
肺病やみのような鼻洟はなったれの道学者先生は、こういった生活欲を何かと下劣なもののようにいう、詩人なんて連中はことにそうなんだ。この生活欲は性質からいうと幾分カラマゾフ的だね。
かく言ひて、貫一は忙々いそがはし鼻洟はな打擤うちかみつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼頃あのころから見ると、みんな立派な姉さんに成りましたなあ——どうして吾儕わたしどもが来た時分には、まだ鼻洟はなを垂らしてるやうな連中もあつたツけが。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
が、重い硝子ガラス戸は中々思うようにあがらないらしい。あのひびだらけの頬はいよいよ赤くなって、時々鼻洟はなをすすりこむ音が、小さな息の切れる声と一しょに、せわしなく耳へはいって来る。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
顔は水膨みづぶくれに気味悪くふくれ、眼はすさまじく一所を見つめ、鼻洟はななかば開いた口に垂れ込み、だらりと大いなる睾丸きんたまをぶら下げたるその容体ていたらく、自分は思はず両手に顔をおほつたのであつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
が、おも硝子戸ガラスど中中なかなかおもふやうにあがらないらしい。あのひびだらけのほほいよいよあかくなつて、時時ときどき鼻洟はなをすすりこむおとが、ちひさないきれるこゑと一しよに、せはしなくみみへはひつてる。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)