魅惑みわく)” の例文
蠱惑こわくに充ちた美しいお照の肉体の游泳姿態を見せられて、いずれ物言わぬ眼に陶然とうぜんたる魅惑みわくの色をただよわしていたものである。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
神話は計画的な大量の嘘言ですらある。要するにそれは人心を魅惑みわく憤激ふんげきせしめるような、美しい言葉や強いスローガンをもって語られるのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
ひと頃は、お米のあこがれでもあった国、これが弦之丞というものを、知らない前のお米であったら、そのささやきに一も二もなく魅惑みわくされているであろう。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、實際じつさいはそれこそ麻雀マージヤン人達ひとたち魅惑みわくする面白おもしろさなので、だれしもすこしそれにしたしんでくるといつとなくそのそのとき縁起えんぎまでかつぐやうになるのも愉快ゆくわいである。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
寳石の威嚴や魅惑みわくに馴れない平次が、思はずたじろいだのも無理はありません。歡喜天の異樣な象頭ざうとうひたひに輝やく夜光の珠が、火の如く燃えて、魅入みいるやうに平次を睨むのです。
そして、このとき今まで彫刻的ちょうこくてきに見えた小初の肉体から妖艶ようえん雰囲気ふんいき月暈つきがさのようにほのめき出て、四囲の自然の風端の中に一不自然な人工的の生々しい魅惑みわくき開かせた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
魅惑みわくのエースと認められている事だし、お出入りのお茶屋が又チャンチャン一流の形容詞沢山で……崑崙茶の味を知らなければ共にお茶を談ずるに足らず……とか何とか云って
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
失敗したことに自分では氣がつかないその失敗を繰り返してゐるのを見るのは——彼女の誇りと自己滿足とが彼女の魅惑みわくしようとしてゐるものを次第に遠くへ反撥してゐるのに
それに、先方には良人おっともいるし、身分のある人だから、訪ねて行ったところで、たいして間違いのあるはずはない。もうそんな魅惑みわくを、夫人はメリコフの上に残していっていた。美しい女だ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
場合が場合なので、彼も今夜は彼女の魅惑みわくにはつ由もなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
地底には無限の魅惑みわくありというが、その魅惑がよもやこのさんざんしらべあげたキャバレーの地底にあろうとは思いもつかなかったことであった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この風景に、彼等は最も熱烈な愛着心を持つて執着してゐた。私にはその心持が分つてゐたし、またその心持の強さと眞實さに共鳴することが出來た。私は田舍が持つ魅惑みわくを看取した。
お靜の着換きがへには相違ありませんが、お樂が着ると、銘仙も木綿もいきになるのでした。洗ひ髮に、赤い/\唇、猪口にさはると其儘酒も紅になりさうな、それは何といふ官能的な魅惑みわくでせう。
其の夜、下宿にかえった僕が、悔恨かいこん魅惑みわくとの間に懊悩おうのうの一夜をあかしたことは言うまでもない。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
溶け入るやうな白い頬の魅惑みわく、おど/\した大きい眼、丸ぽちやで、笑くぼが淀んで、阿里道子のえり子のやうな無邪氣な口調くてうなど、フエミニストの八五郎を、有頂天にさせるには充分でした。
此の種の魅惑みわくに満ちた事件が発散する香気のようなものに過ぎないのでしょう。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし僕は相変らずこの三階にのぼることをめなかった、というのはこのかびくさい陰気な室が大変気に入ってしまったからである。なんとなく秘密でも隠されているような魅惑みわくが感ぜられた。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)