駈着かけつ)” の例文
綱曳つなひきにて駈着かけつけし紳士はしばらく休息の後内儀に導かれて入来いりきたりつ。そのうしろには、今まで居間に潜みたりしあるじ箕輪亮輔みのわりようすけも附添ひたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
腎臓病の青膨れのまま駈着かけつけて来た父親の乙束区長がオロオロしているマユミをつかまえて様子をいてみたが薩張さっぱり要領を得ない。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もっとも直ぐにその日、一昨日おとといでござりますな、すくなからぬ係合かかりあいの知事様の嬢さんも、あすこの茶屋まで駈着かけつけましたそうで。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この驚くべき報告が麓へ拡まると、町からも村からも大勢の加勢が駈着かけつけた。安行の屍体は自宅へ、お杉と𤢖の亡骸なきがらは役場へ、れに引渡ひきわたしの手続てつづきえた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夢にも逢いたい母様おっかさんと、取詰めて手も足も震う身を、その婆さんと別仕立の乗合腕車のりあいぐるま。小石川さしちょうの貧乏長屋へ駈着かけつけて、我にもあらず縋りついた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
別居せる直道ただみちは旅行中にていまかへらず、貫一はあだかもお峯の死体の出でし時病院より駈着かけつけたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わっしあ夢中で逃出した。——突然いきなり見附へ駈着かけつけて、火の見へ駈上かけあがろうと思ったがね、まだ田町から火事も出ずさ。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは事の起りました晩はだ病院に居りまして、かう云ふ事とは一向存じませんで、夜明になつてやうや駈着かけつけたやうな始末、今更申したところが愚痴に過ぎんのですけれど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
呼ばれた青楼うちの帳場まで運んでおいて、息を切って引返す、両手に下方を持って駈着かけつける。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無いとも限らん——有れば急病人のとこから駈着かけつけて、門をたたいても、内で寝入込んで、車夫をはじめ、玄関でも起さない処から、等閑なおざりな田舎のかまえ、どこか垣の隙間から自由に入って来て
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「き様、逢阪のあんころ餅へ、使者に、後押あとおし駈着かけつけて、今帰った処じゃな。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)