頓服とんぷく)” の例文
一個は「阿片丁幾ちんき(毒薬)」と記して有る、一個は「発病の際頓服とんぷくす可し」とあり、残る一個は単に「興奮薬」とのみ記して有る。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
五分ののち病症はインフルエンザときまった。今夜頓服とんぷくを飲んで、なるべく風にあたらないようにしろという注意である。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
謡曲中毒もここまで来ると既に病膏肓やまいこうこうに入ったというもので、頓服とんぷく的忠告や注射的批難位では中々治るものでない。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
母親は夕餉ゆうげまで眼をさまさなかった。支度が出来たので起して喰べさせ、煎薬せんやく頓服とんぷくをのませると、びっくりするほどの効きめで、すぐにまた眠りだした。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は平生から用意してあるモルヒネの頓服とんぷくを飲んで、朝も昼も何も喰べずに寝ていた。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
院長が夜更よなかに特別に診察にまわって、心臓の手当てらしい頓服とんぷくをくれた前後の二、三日は、笹村は何事をも打ち忘れて昏睡に陥っている子供の枕頭まくらもとに附ききっていたが、時々ゆるんだ心が
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
五分ごふんの後病症はインフルエンザときまつた。今夜頓服とんぷくを飲んで、成るかぜあたらない様にしろと云ふ注意である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「トンプク……ああわかった。頓服とんぷくか……ええと……メートル酒十銭……」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただの風邪だろうという診察をくだして、水薬すいやく頓服とんぷくを呉れた。彼はそれを細君の手から飲ましてもらった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「じゃともかくも頓服とんぷく水薬すいやくを上げますから」「へえどうか、何だかちと、あぶないようになりそうですな」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「もう大丈夫だいぢやうぶでせう。頓服とんぷくを一くわいげますから今夜こんやんで御覽ごらんなさい。多分たぶんられるだらうとおもひます」とつて醫者いしやかへつた。小六ころくはすぐ其後そのあとつてつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「もう大丈夫でしょう。頓服とんぷくを一回上げますから今夜飲んで御覧なさい。多分寝られるだろうと思います」と云って医者は帰った。小六はすぐそのあとを追って出て行った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浮世の日がはげし過ぎて困る自分には——東京にも田舎いなかにもおりおおせない自分には——煩悶はんもん解熱剤げねつざい頓服とんぷくしなければならない自分には——神経繊維のはじの端まで寄って来た過度の刺激を
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)