おと)” の例文
吉田は刺客に立ち向つて、肩先を深く切られて、きずのために命をおとしたが、横井は刺客の袖の下をくゞつて、都筑と共に其場を逃げた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「いいかね、静かにしているんだ。若し騒立てて家へ逃帰ったりすれば、貴女のお母さんは生命をおとすことになるんだよ。解ったかね」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
ベルナルドオのきずは命をおとすに及ばざりしかば、私は其治不治生不生の君が身の上なるべきをおもひて、須臾しゆゆもベルナルドオの側を離れ候はざりき。
あららかに言棄いいすてて、疾風土をいて起ると覚しく、恐る恐るこうべもたげあぐれば、蝦蟇法師は身を以ておとすが如くくだき、もやに隠れてせたりけり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岩石に骨を砕かれて即座に命をおとしたか、あるいは案外の軽傷で無事に生きているか、その安否をたしかめねばならぬ。いかに悪人にもせよ、のまま見殺しにするという法はあるまい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
六日に至って咳嗽がいそう甚しく、発熱して就蓐じゅじょくし、つい加答児カタル性肺炎のために命をおとした。嗣子終吉さんは今の下渋谷しもしぶやの家に移った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
成斎は卒中そっちゅうで死んだ。正弘の老中たりし時、成斎は用人格ようにんかくぬきんでられ、公用人服部はっとり九十郎と名をひとしうしていたが、二人ににん皆同病によって命をおとした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
致仕したのちに、力を述作にほしいままにしようと期していたのに、不幸にして疫癘えきれいのためにめいおとし、かつて内に蓄うる所のものが、遂にほかあらわるるに及ばずしてんだのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小泉がよろめく所を、右の脇腹わきはらつきを一本食はせた。東組与力小泉淵次郎えんじらうは十八歳を一期いちごとして、陰謀第一の犠牲としていのちおとした。花のやうな許嫁いひなづけの妻があつたさうである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)