阿父おとう)” の例文
後で叱るなどとは父か所天おっとで無くては出来ぬ事だ、余「其の人は誰ですか。私の叔父ですか」秀子「イイエ、阿父おとう様では有りません」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
阿父おとうさん、これちぎり立てのさくらなのよ。埃や毛虫の卵がくつ着いててもいけないから、一粒づつこの水で洗つて召しあがれよ。」
岡崎御坊へせうずる事が出来たら結構だと云ふので、呉服屋夫婦が熱心に懇望こんまうした所から、朗然らうねんと云ふみつぐさんの阿父おとうさんが、入寺にふじして来るやうに成つた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「やっと芝居が無事にすんだね。おれはお前の阿父おとうさんに、毎晩お前の夢を見ると云う、小説じみた嘘をつきながら、何度冷々ひやひやしたかわからないぜ。」
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「繁ひとりがいっているんじゃないよ、阿父おとうさん——」と松は何やらにやりと笑いを浮べながら父親へ耳打ちした。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
阿父おとう様、この瓶、みょうな瓶なんですよ、ちょうど生きているように、幾度投げてもコロコロと——」
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「それでも……さうですな、さう言へばさうですけれど、……阿父おとうさんの方で會ひたかつたでせう。」
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
O君の阿父おとうさんは近所に住んでいて、昔からおてつの家とは懇意こんいにしていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「何ですか、お国では阿父おとうさんも阿母おかあさんもお変りは有りませんか?」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
阿父おとうさんは小田原の士族であった。まだ小さな時分に、両親は北村君を祖父母の手に託して置いて、東京に出た。北村君は十一の年までは小田原にいて、非常に厳格な祖父の教育の下に、成長した。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
阿父おとうさまが御自分で持っていらしったのよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『阿母さん、昨日きのふ校長さんが君んとこ阿父おとうさんは京のまちで西洋のくすりや酒を売る店を出すんだつて、本当かて聞きましたよ。本当に其様そんな店を出すの。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
令嬢といふのは、阿父おとうさんそつくりの顔をした、基督降誕祭クリスマスの前夜、サンタ・クロオスの袋から転がり出したやうな罪のない罪のない女の子なのだ。
久米は今、彼の幼年時代に自殺した阿父おとうさんの事を、短篇にして書いてゐると云つた。小説はこれが処女作同様だから、見当がつかなくて困るとも云つた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と、阿父おとうさんが晃兄さんを切諌せつかんなさる時のこはい顔が目にうかんだので、此の縄をつては成らぬと気が附いた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「そんなに怖い目して見るのは厭!」娘はあまえたやうにかぶりをふつた。「ねえ、阿母おつかさん、阿母おつかさんも結婚ぜんうち阿父おとうさんと一緒に温室に入つた事があつて。」
阿父おとうさまは平素ふだん言つてらつしやらあ。子供には背の高いのと低いのと、お悧巧なのと意地悪なのとがあるばかしだつて。下様しもざまの子供だなんて、そんなのがあるもんかい。」
『僕達の着物も、かあさんのも、阿父おとうさんの物も。』
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
半月氏の兄といふのは、洋画家湯浅一郎氏の阿父おとうさん治郎氏のことだ。
阿父おとうさん、斯う云ふ人が来ました。』
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
阿父おとうさんてば、何だつて花には香気にほひがあるの。」
阿父おとうさん、何だつて花には香気にほひがあるの。」