とこ)” の例文
妻の墓はいま下谷谷中の天王寺墓地にあり、その墓碑の表面には私の咏んだ句が二つ亡妻へのとこしなえの感謝として深く深く刻んであります。
ける日は追えども帰らざるに逝ける事はとこしえに暗きに葬むるあたわず。思うまじと誓える心に発矢はっしあたる古き火花もあり。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とこしなへに空の日の光といふものを遮られ、酷薄と貧窮と恥辱と飢餓の中に、年少脆弱、然も不具の身を以て、健気けなげにも単身寸鉄を帯びず、眠る間もなき不断の苦闘を持続し来つて
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
露ほどの恨みもとこしへに解くることなく人をそこなはんと思ふ。
哀詞序 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
美くしく優しくとこしなえにもだして横わる小さい姿の——
悲しめる心 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
盾の真中まんなかが五寸ばかりの円を描いて浮き上る。これには怖ろしき夜叉やしゃの顔が隙間すきまもなくいだされている。その顔はとこしえに天と地と中間にある人とをのろう。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ヲートルローの大戦に誤つて流弾の為めに一眼を失ひ、却つて一段秋霜烈日の厳を加へた筈のナポレオン・ボナパルトは、既にとこしなへに新田耕助の仰ぎ見るべからざるものとなつたのである。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
永続する以上は幾多の『猫』と、幾多の『漾虚集』と、幾多の『鶉籠』を出版するの希望を有するがために、余はとこしへにこの神経衰弱と狂気の余を見棄てざるを祈念す。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ヲートルローの大戰に誤つて流彈の爲めに一眼を失なひ、却つて一段秋霜烈日の嚴を加へた筈のナポレオン・ボナパルトは、既にとこしなへに新田耕助の仰ぎ見るべからざるものとなつたのである。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
一里をへだてても、そことゆびの先に、引っ着いて見えるほどの藁葺わらぶきは、この女の家でもあろう。天武天皇の落ちたまえる昔のままに、棚引たなびかすみとこしえに八瀬やせの山里を封じて長閑のどかである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
捕われて遠き国に、行くほどもあらねば、この手にて君が墓をはらい、この手にてこうくべき折々の、とこしえに尽きたりと思いたまえ。生ける時は、莫耶ばくやも我らをき難きに、死こそ無惨むざんなれ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)