鈍色にぶいろ)” の例文
脊丈のほどもおもわるる、あの百日紅さるすべりの樹の枝に、真黒まっくろ立烏帽子たてえぼし鈍色にぶいろに黄を交えた練衣ねりぎぬに、水色のさしぬきした神官の姿一体。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私を世に起たしめる上にこの鈍色にぶいろをした拳銃ピストル一梃の持つ人生克服の威力、にすらも遠く及ばざることを感じたことはなかったのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
折り重なった鈍色にぶいろの雲のかなたに夕日の影は跡形もなく消えうせて、やみは重い不思議な瓦斯がすのように力強くすべての物を押しひしゃげていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ものをいわない湯沸ゆわかしは、ガラスまどからむうすいひかりらされて、鈍色にぶいろしずんでいました。じっとしていると、つかれがてくるものとおもわれました。
人間と湯沸かし (新字新仮名) / 小川未明(著)
と思うと、余呉の湖水や琵琶びわ大湖たいこも、銀のつやをかき消されて、なまりのような鈍色にぶいろにかわってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其の鈍色にぶいろを破ツて、處々に煤煙はいえん上騰のぼツてゐる。眞直まつすぐ衝騰つきのぼる勢が、何か壓力に支へられて、横にもなびかず、ムツクラ/\、恰で沸騰ふつとうでもするやうに、濃黒まつくろになツてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
行っても行っても果しのない、鈍色にぶいろに光った道路が、北川氏の行手に続いていた。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二位殿は、日頃から覚悟の事とて、少しも乱れる色もなく、鈍色にぶいろ二衣ふたつぎぬに、練袴ねりばかまをそば高くはさみ、神璽しんじを脇に、宝剣を腰にさし、主上をお抱きして舟ばたまで、静かに歩み出された。
沼南のインコ夫人の極彩色は番町界隈や基督キリスト教界で誰知らぬものはなかった。羽子板はごいたの押絵が抜け出したようで余り目に立ち過ぎたので、鈍色にぶいろを女徳の看板とする教徒の間には顰蹙するものもあった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
鈍色にぶいろ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
彼は、鈍色にぶいろの光線が照り返っているレールに添うて淋しい野中の細道を見廻った時、彼の水腫みずぶくれのした体は、紺の褪めた洋服を着て、とぼとぼと歩くたびに力の入っていない両手は、無意識に動揺した。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
黒の被布で、鈍色にぶいろ単衣ひとえの白襟で、窪んだ目をみひらいた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鈍色にぶいろ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)