野天のでん)” の例文
折からの日曜で、海岸へ一日がえりが、むらがかかいきおいだから、汽車の中は、さながら野天のでんの蒸風呂へ、衣服きものを着てつかったようなありさまで。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
町「たとえ此の山奥で餓死うえじにするとも野天のでんで自殺は後日の物笑い、何者のすまいかは知らぬが、少々おえんを拝借いたします、南無阿弥陀仏/\」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
めずらしい幻術師が来ても、傀儡くぐつ師が来ても、賭弓かけゆみや賭剣術が催されても、野天のでんであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
会場は支那の村落に多い、野天のでん戯台ぎだいを応用した、急拵きゅうごしらえの舞台の前に、天幕テントを張り渡したに過ぎなかった。が、その蓆敷むしろじきの会場には、もう一時の定刻ぜんに、大勢おおぜいの兵卒が集っていた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この土地の風習はどんな小さな家でも、一軒の家となれば、かならず多少の森が家のまわりになければならないのだ。で一軒の家が野天のでんに風の吹きさらしになってるのは、非常にみにくいとなってる。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
先生よしなに、とは言い得ないで、秘し隠しをする料簡りょうけんじゃ、うぬが家を野天のでんにして、おんなとさかっていたいのだろう。それで身が立つなら立って見ろ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
名古蝶なこちょう八の物真似ものまね一座を筆頭に辻能つじのう豊後節ぶんごぶしの立て看板。野天のでんをみると、江戸のぼりの曲独楽きょくごま志道軒しどうけんの出店。そうかと思うと、呑み棒、飴吹あめふき、ビイドロ細工、女力士と熊の角力すもうの見世物などもある。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一度いちどうちはひつて、神棚かみだなと、せめて、一間ひとまだけもと、玄關げんくわん三疊さんでふつちはらつた家内かないが、また野天のでん逃戻にげもどつた。わたしたちばかりでない。——みなもうなか自棄やけつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)