遍路へんろ)” の例文
「昔は阿波のお国へも、商人衆あきんどしゅう遍路へんろの者が、自由に往来ゆききしたそうでございますが、いつからそんな不便なことになったのでしょう」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四国といえば昔から八十八箇所巡礼の国で、桜や菜の花が咲き乱れる頃、諸国から集るお遍路へんろの白い姿が道を伝って流れるように続きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
父は善根ぜんこんの深い人で、四国、西国の霊場を経巡へめぐ遍路へんろの人達のために構えの一棟を開放し善根の宿に当てていた。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
彼の父は今から十年ばかり前に、突然遍路へんろみ果てた人のように官界を退いた。そうして実業に従事し出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大野おおのまちからくるまをひいて油売あぶらうり、半田はんだまちから大野おおのまちとお飛脚屋ひきゃくやむらから半田はんだまちへでかけてゆく羅宇屋らうやとみさん、そのほか沢山たくさん荷馬車曳にばしゃひき、牛車曳ぎゅうしゃひき、人力曳じんりきひき、遍路へんろさん、乞食こじき
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
年の若さに遍路へんろの旅にたちまよふアマリリスの香料
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
そこに一人の遍路へんろが通りかかる。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
遍路へんろさんお遍路さん
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
四国二十三番の札所ふだしょ薬王寺やくおうじにゆく足だまりにもなるので、遍路へんろの人のほのじろい姿と、あわれにふる鈴のもこのたそがれのわびしい点景。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし彼らを失ったら、永きこの世の旅に、誰か堪え得るであろう。遍路へんろの杖には「同行二人どうぎょうににん」と記してあるが、工藝をかかる旅の同行といい得ないであろうか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そこに一人の遍路へんろが通りかかる。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこで落ちあったのが、今、別れた遍路へんろの人々である。天蓋てんがいや、わらじなども、その人たちが、寺で工面くめんしてくれた物だった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お内儀さんは近所の衆と、遍路へんろに出て今は留守だし、ほかにゃ弟子か部屋の者ばかりだが、何か用かい、客人」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その五人を一様一色な遍路へんろとばかり思っていたので、虚無僧のまじっていたことも、またその天蓋てんがいのかげに明敏なまなざしが働いていたことにも気がつかなかった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遍路へんろ切手がある以上は、関所や便船になやむことはあるまいが、飽くまでもと、そちや弦之丞殿をつけ狙っている者もあることゆえ、ひとたび江戸を踏みだした後は、いっそう油断を
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鴻山の手から、阿波へ渡る遍路へんろ切手をうけとって、中仙道から、木曾路の垂井たるいへ急いで行きました。そこにゃ、先に姿を消してしまった法月弦之丞もいて、この春の道者船にのる支度を
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから木立を隔てて見えるのは、月光の底に沈んでいる二十八柱の大伽藍だいがらん、僧行基ぎょうきのひらくという医王山薬師如来やくしにょらい広前ひろまえあたり、嫋々じょうじょうとしてもの淋しい遍路へんろりん寂寞せきばくをゆすって鳴る……。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うぬら、下手へたなまねをすると、地獄へ遍路へんろに行かせるぞよ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)