さかしま)” の例文
「まあ似たもんだ。君と僕の違ぐらいなところかな」と宗近君は肉刺フォークさかしまにして大きな切身を口へ突き込む。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを治道にたとうれば、なお聖王の後、けつちゅうを出すがごとし。それ邦の王を立つる、民を保するがためなり。しかして桀・紂のさかしまあり。人の教を立つるは世を救うゆえんなり。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
……その森、その樹立こだちは、……春雨のけぶるとばかり見る目には、三ツ五ツ縦に並べた薄紫の眉刷毛まゆばけであろう。死のうとした身の、その時を思えば、それもさかしまに生えた蓬々おどろおどろひげである。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに、からだに比較しては長過ぎる二三寸の尾を動かしながらしきりにさかしまに松の枝へ吊さっては餌をむさぼる。尾に触れ嘴に打たれて、小さな松の皮、古松葉などがはらはらと落ちて来る。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
さかしま
蛇苺 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
わんと云えばまたわんと云えと云う。犬は続け様にわんと云う。女は片頬かたほえみを含む。犬はわんと云い、わんと云いながら右へ左へ走る。女は黙っている。犬は尾をさかしまにして狂う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何が、死骸しがい取片づけの山神主が見た、と申すには、獅子がかしらさかしまにして、そのおんなの血をめ舐め、目から涙を流いたというが触出ふれだしでな。打続く洪水は、そのおんなうらみだと、国中の是沙汰これざただ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引き掛った男は夜光のたまを迷宮に尋ねて、紫に輝やく糸の十字万字に、魂をさかしまにして、のちの世までの心を乱す。女はただ心地よげに見やる。耶蘇教ヤソきょうの牧師は救われよという。臨済りんざい黄檗おうばくは悟れと云う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)