逆寄さかよ)” の例文
あるいは機先を制して、むこうから逆寄さかよせに押しかけて来るかもしれない。下世話げせわのことわざにもある通り、いては事を仕損ずる。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
迎えて陣屋の設けもできていません。今、直ちに逆寄さかよせをなし給えば、いつをもって労を撃つで——必ず大捷たいしょうを博すだろうと思います
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しからん。鳥の羽におびやかされた、と一の谷に遁込にげこんだが、はかままじりに鵯越ひよどりごえを逆寄さかよせに盛返す……となると、お才さんはまだ帰らなかった。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と見ると、今迄忠志君の歩いて居たあたりを、三台の荷馬車が此方こちらへ向いて進んで来る。浪が今しも逆寄さかよせて、馬も車も呑まむとする。あつと思ツて肇さんは目を見張ツた。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
... それに反しましてお味方の勢は、勝に乗りまして意気軒昂、然らば今夜逆寄さかよせ仕り、一挙に追い散らしあそばすこそ、肝要かと愚考いたされまする」。「一理はある」と、正成は云った。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
死物狂いの逆寄さかよせなどをたくむようなぶりはなかったかな。いや、奥方に行き逢うたばかりでは、それも判るまい。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
逆寄さかよせの決心で、そう言ったのをキッカケに、どかと土手の草へ腰をかけたつもりのところ、負けまい気の、ものの顔を見詰みつめていたので、横ざまに落しつけるはずの腰がすわらず、床几しょうぎすべって
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この方から逆寄さかよせして、別宅のその産屋うぶやへ、守刀まもりがたな真先まっさきに露払いで乗込めさ、と古袴ふるばかま股立ももだちを取って、突立上つッたちあがりますのにいきおいづいて、お産婦をしとねのまま、四隅と両方、六人の手でそっいて、釣台へ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)