ざい)” の例文
張飛としてけだし千ざいの一遇といおうか、優曇華うどんげの花といおうか、なにしろ志を立てて以来初めて巡り合った機会といわねばなるまい。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人一倍したゝかな魂と力を持つた半兵衞を討ち取る望もなく、心ならずも折を狙つて月日を過してゐるうち、昨夜といふ昨夜こそは、まことに千ざいぐうの時節到來
「そんなこともなかろうが、読み方によっては、千ざいのち懦夫だふ蹶起けっきせしめるかも知れない」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
蕪村はこの理想的の事をなほ理想的に説明せり。かつその説明的なると文学的なるとを問はず、かくの如き理想を述べたる文字に至りては上下二千ざい我に見ざる所なり。奇文なるかな。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
形の美は皮一枚、心の美は千ざいつらぬく。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこへかもも鴨、断然そんな手輩てあいとは、金の切れが違う西門慶という大鴨がかかったのだから、婆としては千ざいの一ぐうだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「相澤樣が御墨附を受取に行つた時、千ざいぐうの思ひだつたらう。お前は前の晩用意しろと言ひ付けられると、早速青竹を切つて來て水鐵砲をこさへた、これだよ」
「身は死すともなお漢中を守り、毅魄きはくは千ざい中原ちゅうげんを定めん」となす、これが孔明の遺志であったにちがいない。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長の進出を、直ちに、自分の進出とし——自分の千ざいぐうとした者など、ほとんど稀れだといっていい。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そいつア惜しい。二龍山など行かずに、都頭武松も、こっちへ来てくれたら、どんなに歓呼かんこして迎えたかもしれねえのに、千ざいぐうの機を逃がしたようなもんだ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「合戦中は、夜ごと、名馬が厩で悲しみましょう。この千ざいぐうときにつながれて置かれては」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(どうだ、貴公も行かないか。ぜひ一口入れ。吾々が世に浮かび出る千ざいの一ぐうが来たのに、その機会をがすなどという法があるものか。——なあ御新造、そうじゃないか)
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身は緑林りょくりんにおき、才は匹夫ひっぷ、押して申しかねますなれど、きょうの日は、てまえにとって、実に、千ざいの一ぐうといいましょうか、盲亀もうき浮木ふぼくというべきか、逸しがたい機会です。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそれは彼の千ざいぐうであり彼のたましいを燃やすに足るものではあった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやでも上野介が邸外へ出ねばならぬその千ざいぐう機会おりを——
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
問「が、お名は千ざいに残る」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)