訣別わかれ)” の例文
あのおりおもいのほか乱軍らんぐん訣別わかれ言葉ことばひとつかわすひまもなく、あんなことになってしまい、そなたもさだめし本意ほいないことであったであろう……。
間もなく紅葉のは伝わって、世をこぞってこのたぐい少ない天才のくを痛惜したが、訃を聞くと直ぐ、私は弔問して亡友の遺骸に訣別わかれを告げた。
先君の御名が立たぬ、お志の段はかたじけないが、お城へ、お訣別わかれを告げて引きとられい。岡野、井関、大岡の諸氏へも、昨日そう申して御得心していただいた事であった
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私が訣別わかれことばを書いた手紙をもって戸外へ出ると、そこは彼女の家の裏まで田圃たんぼつづきです。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
故国くにの親類縁者へ手紙を出すものは出す、また江戸に親兄弟のあるものは、それぞれ訪ねて行って、それとなく訣別わかれを告げるというように、一党の気はいはどことなくざわだってきた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
篠田は梅子の肩、両手もろてに抱きて「心弱きものと御笑ひ下ださいますな——アヽ今こそ此心晴れ渡りて、一点憂愁いうしう浮雲ふうんをも認めませぬ、——然らば梅子さん、是れでお訣別わかれ致します」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
大杉の一生を花やかにした野枝さんとの恋愛の犠牲となった先妻の堀保子も、イヤで別れたのでない大杉に最後の訣別わかれを告げに来て慎ましやかに控えていたが、恋と生活とにやつれた姿は淋しかった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
落城後らくじょうごわたくしがあちこち流浪るろうをしたときにも、若月わかつきはいつもわたくし附添つきそって、散々さんざん苦労くろうをしてくれました。で、わたくし臨終りんじゅうちかづきましたときには、わたくし若月わかつき庭前にわさきんでもらって、この訣別わかれげました。
「さらば——」と、一同へ訣別わかれを告げた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうせ、今宵かぎり、この国の人とも山河とも訣別わかれてゆくおまえだから、知らないものならいうまいと思ったが、気づいたからはつぶさに話そう。あの灯はた、お那珂なかさんが、糸仲買の専右衛門に、嫁にもらわれてゆく仰山な明りだよ」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)