衛府えふ)” の例文
主上と准后の廉子やすこからは、祭祀の供華くげを賜わっていたので、そのおこたえに参内したものと、衛府えふ伝奏でんそうには触れられているという。
西八条の邸内には、既に一門の重だった者たち数十人が、思い思いの鎧をつけて、ずらりと立ち並び、諸国の受領ずりょう衛府えふなどは、縁先からあふれて庭を埋めている。
公卿こうけいも二人の大臣以外は全部供奉ぐぶした。神前の舞い人は各衛府えふの次将たちの中の容貌ようぼうのよいのを、さらに背丈せたけをそろえてとられたのであった。落選してなげく風流公子もあった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼は再び恋のかたきを蹴倒して、腰にいている衛府えふの太刀に手をかけたかと思うと、闇にきらめいた切っ先は兼輔の烏帽子をはたと打ち落として、その小鬢こびんを斜めにかすった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その父は、しかも、とかく官途をきらって、鳥羽の院へも、御所の衛府えふへも、特に、召されでもしない限りは、出仕しゅっししたためしがない。
「もう堪忍も容赦もならぬ。衛府えふの侍どもを召しあつめて、宇治へ差し向けようと思う」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この夜の信連の装束は、萌黄匂もえぎにおいの腹巻をつけ、上には薄青の狩衣かりぎぬ、腰には衛府えふの太刀。やがて午前零時、騎馬の音が門外に近づいた。源大夫判官兼綱と、出羽判官光長の率いる三百余騎である。
文官の誇りにする弁さえ傍観していられないのだから、高官になっていても若い衛府えふの人などはおとなしくしている必要もない。私の青春時代にもそうしたことの仲間にはいりえないのが残念に思われたものだ。しかし軽々しく人を
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
「火事だけなら、こんなにあわてはしません。衛府えふの者がやって来たのです。とうとうやって来た! 何十人という捕吏を連れて——」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尊氏は、衛府えふノ門の外へやって来て、供の面々へ、自分はひとり後から帰る、一同は先にひきあげて、くつろいでいいぞと、いい渡した。
いい捨てると、尊氏はふたたび衛府えふの門内へもどって行った。そして、内裏の西北にある校書殿きょうしょでんの廊ノ細殿の外にかかるや、ふとたたずんで
には、文武天皇の大宝元年(西暦七〇一年)が始めとみえる。禁廷きんていで、左右の衛府えふの人びとだけでやったものらしい。それも五月の節会せちえだけに。
言い出しては、決して、言をひるがえすこう大将ではない。都城の衛府えふで、部下をが鳴ッている通りな彼になっている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
衛府えふの小者たちは、そんな例を毎晩のように見かけるけれど、これも、大してともしない顔つきで、多くは見のがしていることが当り前になっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞けば、衛府えふやからは、おれたちのわらい、自分らの手でってみせるといいおるそうな。——意地でもある。盛遠は、この手で、とらえてみせたいところだ。
阻止する衛府えふの士と、盲目的な六波羅者との間に、たちまち、凄まじい格闘が起ったのはいうまでもない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それ」と、すぐさま衛府えふの侍を走らせてみると、それは、郷住さとずまいになったさる武家の姉妹きょうだいであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勅使は、帰京するや、さっそくこれを総理高俅こうきゅうにつたえ、高俅は帝のみゆるしのもとに、衛府えふ、および禁軍武器庫、それぞれの文官武官に命じて手順をとらせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平治ノ乱のむかしは、ここも武者草鞋わらんじ馬蹄ばていにじゅうりんされたこともあるが、今日こんな無法な侵入は、衛府えふとしてゆるし難い。彼らの極力な阻止は当然なのだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えれば、必ず一衛府えふの大将ではおりません。やがては、幕府の将軍を、望むにきまッておりまする
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それくらいだから、長年、禁門の衛府えふにありながら、彼のみは、昇殿もゆるされなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに、突然、彼は、小一条の館から、滝口の衛府えふへ、勤め替えを、命じられた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも実物の王よりは柴進のほうが、くつの運びまでが立派であった。東華門、正陽門の二衛府えふを通ると、内裏だいりもいわゆる鳳闕ほうけつのまぢかで、瑠璃るりのかわら、鴛鴦えんおう(おしどり)の池のさざなみ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
衛府えふ三名、供侍二十騎が、それに扈従こじゅうして行った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかし、わしの官位などは、依然として、大掾に止まったままだ。何というても、田舎にいては、がわるい。おもとは、右馬允になり、やがては、衛府えふかみにもなれよう。官職では、この老父よりはるかに上じゃよ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)