薫香くんこう)” の例文
しめやかな薫香くんこうにおいに深く包まれておいでになることも、柔らかに大将の官能を刺激しげきする、きわめて上品な可憐かれんさのある方であった。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
殊に女の教養は、貧苦窮乏の冬日をこえて来た風雪の薫香くんこうでなければ、まことに根のないばなのそれにひとしい。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは夫人の衣服にみている得ならぬ薫香くんこうにおいであったか、又、河内介には見えなかったけれども、彼が平伏している頭の近くに小さな書院風の窓があり
もう古くて厚ぼったくなった檀紙だんし薫香くんこうのにおいだけはよくつけてあった。ともかくも手紙のていはなしているのである。歌もある。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
宋朝そうちょう初期のころには、紫雲しうん薫香くんこう精舎しょうじゃの鐘、とまれまだ人界の礼拝らいはいの上にかがやいていた名刹めいさつ瓦罐寺がかんじも、雨露うろ百余年、いまは政廟せいびょうのみだれとともに法灯ほうとうもまた到るところほろびんとするものか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その事務的に、無表情に、まめ/\しく働いている女たち、部屋の至るところに並んでいる生首、低い屋根裏に燃える燈火、薫香くんこうの匂と血の匂との交った空気、———すべてが昨夜の通りであった。
源氏の服の薫香くんこうがさっと立って、宮は様子をお悟りになった。驚きと恐れに宮は前へひれ伏しておしまいになったのである。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ここほどけっこうな所はないと御主人様は思召おぼしめすふうでしたが、東国ではこんな薫香くんこうを合わせてお作りになることはできませんでしたね。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
御衣服、くしの箱、乱れ箱、香壺こうごの箱には幾種類かの薫香くんこうがそろえられてあった。源氏が拝見することを予想して用意あそばされた物らしい。
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
前斎院から香の届けられたことと、宮のおいでになったのを機会にして、夫人らの調製した薫香くんこうも取り寄せる使いが出された。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
源氏は贈り物に、自身のために作られてあった直衣のうし一領と、手の触れない薫香くんこう二壺ふたつぼを宮のお車へ載せさせた。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と女房たちがお責めするので、灰色の紙の薫香くんこうのにおいを染ませたえんなのへ、目だたぬような書き方にして
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
だれもそばにいず打ちやられてあった人は若くて美しく、白いあやの服一重ねを着て、紅のはかまをはいていた。薫香くんこうのにおいがかんばしくついていてかぎりもなく気品が高い。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
選んだ紙の色、書きよう、きしめた薫香くんこうにおいもそれぞれ特色があって、美しい感じ、はっきりとした感じ、奥ゆかしい感じをそれらの手紙から受け取ることができた。
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
奥の座敷かられてくる薫香くんこうのにおいと仏前に焚かれる名香の香が入り混じって漂っている山荘に、新しく源氏の追い風が加わったこの夜を女たちも晴れがましく思った。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
薫香くんこうを多くたきしめてお出かけになった姿は、寸分のすきもないお若い貴人でおありになった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
風がはげしく吹いて、御簾の中の薫香くんこうの落ち着いた黒方香くろぼうこうの煙も仏前の名香のにおいもほのかにれてくるのである。源氏の衣服の香もそれに混じって極楽が思われる夜であった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と言って、甘いにおいの薫香くんこうを熱心に着物へき込んでいた。べにを赤々とつけて、髪をきれいになでつけた姿にはにぎやかな愛嬌あいきょうがあった、女御との会談にどんな失態をすることか。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
備わるが上の薫香くんこうをたきしめて来たのであったから、あまりにも高いにおいがあたりに散り、常に使っている丁字ちょうじ染めの扇が知らず知らず立てる香などさえ美しい感じを覚えさせた。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
中宮ちゅうぐうから白い唐衣からぎぬ小袖こそで髪上くしあげの具などを美しくそろえて、そのほか、こうした場合の贈り物に必ず添うことになっている香のつぼには支那しな薫香くんこうのすぐれたのを入れてお持たせになった。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
東宮も同じ二月に御元服があることになっていたが、姫君の東宮へはいることもまた続いて行なわれて行くことらしい。一月の末のことで、公私とも閑暇ひまな季節に、源氏は薫香くんこうの調合を思い立った。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
昔のよい薫香くんこうつぼをそれにつけて侍従へ贈った。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)