蕪雑ぶざつ)” の例文
けれども、江戸伝来の趣味性は九州の足軽風情ふぜいが経営した俗悪蕪雑ぶざつな「明治」と一致する事が出来ず、家産を失うと共に盲目になった。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただ粗漏蕪雑ぶざつのまま大体を取纏めて公表を急がなければならなくなった筆者の苦衷を御諒恕の程幾重にも伏願する次第である。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
自分は最後にこの二篇の蕪雑ぶざつな印象記を井川恭氏に献じて自分が同氏に負っている感謝をわずかでも表したいと思うことを附記しておく(おわり)
松江印象記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
匆卒そうそつの間に筆を執ったためにはなはだ不秩序で蕪雑ぶざつな随感録になってしまったが、トーキーの研究者に多少でも参考になることができたら大幸である。
耳と目 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのさわがしい華やかさ、そのロンドンらしい「遵奉されたる蕪雑ぶざつさ」において、この「巷の詩」のもつ調子ニュアンスとすこしも変らないものを見出し得る町が
これがもしも貞子の家だったら貞子はこれを見た目も美しく盛り合せて食欲をそそり立てるであろうに、男世帯の蕪雑ぶざつさはただ量的に豊富なばかりである。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
現時の放漫蕪雑ぶざつな共産主義によって精神的孤立の犯される苦しみ、それ以上の深い苦しみは世に存しない。
この蕪雑ぶざつうつも、美の訪れの場所である。そうして下根の凡夫も、救いの御手に渡さるる身である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一たい、我々の祖先は、他を蕪雑ぶざつに模倣するには、あまりに高い文化的感性の持続を伝承してゐた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
しかしそれが露骨に蕪雑ぶざつで、つまりは見てくれという示威的な要素が多分にふくまれているようだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
縦令たとい外面的な生活が複雑になろうとも、言葉の持つ意味の長い伝統によって蕪雑ぶざつになっていようとも、一人の詩人の徹視はよく乱れた糸のような生活の混乱をうち貫き
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
今日より見れば随分蕪雑ぶざつなる或者はアホダラ経に似たる当時より見れば、すこぶる傑作なる文学を出し、更らに矢野文雄氏の経国美談報知新聞の繋思談の如きものとなりて現はれ
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
以前は荷馬車にばしゃなどは通わない里道さとみちであった道が、蕪雑ぶざつに落ちつきの悪い県道となっていた。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
詩は古典的でなければならぬとは思はぬけれども、現代の日常語は詩語としては余りに蕪雑ぶざつである、混乱してゐる、洗練されてゐない。といふ議論があつた。これは比較的有力な議論であつた。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかしダンネベルグ夫人のは、そういった蕪雑ぶざつな目撃現象ではありません
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかしあまりにも無作法にこの特権を濫用したこの蕪雑ぶざつなる一編の放言に対しては読者の寛容を祈る次第である。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
文章は勿論蕪雑ぶざつである。が、当時の心もちは、或はその蕪雑な所に、反ってはっきり出ているかも知れない。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この蕪雑ぶざつうつも、美の訪れの場所である。そうして下根げこんの凡夫も救いの御手に渡さるる身である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この蕪雑ぶざつなる研究の一章はつまびらかに役者絵の沿革を説明せんと欲するよりも、むしろこれに対する愛惜の詩情を吐露せんとする抒情詩じょじょうしの代用としてこれを草したるのみ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その光りと影、その廃頽はいたいと暗示、私は哈爾賓の持つ蕪雑ぶざつな詩趣を愛する。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
詩は古典的でなければならぬとは思わぬけれども、現在の日常語は詩語としてはあまりに蕪雑ぶざつである、混乱している、洗練されていない。という議論があった。これは比較的有力な議論であった。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
わたしはどうかしてこの野卑蕪雑ぶざつなデアルの文体を排棄はいきしようと思いながら多年の陋習ろうしゅう遂に改むるによしなく空しく紅葉こうよう一葉いちようの如き文才なきをたんじている次第であるノデアル。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「親しさ」、これをこそ工藝の特質と云えないだろうか。日々の伴侶はんりょたるもの、この蕪雑ぶざつな現実の世界に吾々の身に仕え心を慰めようとて生れたるもの、それを工藝と云えないだろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もし器の美がなかったら、世は早くも蕪雑ぶざつな世に化したであろう。心は殺伐に流れたであろう。器の美なき世は住みにくき世である。今の世がいらだつのは、器が醜くなったからではないであろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もし器の美がなかったら、世は早くも蕪雑ぶざつな世に化したであろう。心は殺伐さつばつに流れたであろう。器の美なき世は住みにくき世である。今の世がいらだつのは、器が醜くなったからではないであろうか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)